CLOUZA COLUMN

勤怠管理コラム

長時間勤務が問題化している教員の働き方について、平成29年11月28日、中央教育審議会(中教審)初等中等教育分科会・学校における働き方改革特別部会において議論が行われました。

その中では、小中学校における「働き方改革」に関する総合的な方策とし、文部科学省に対して、公立学校の教師の長時間勤務の改善に向けて、勤務時間の上限の目安を示したガイドラインを策定するよう求めています。

各地の小中学校で教員不足が広がっている中、その対策としての教員の勤務時間管理の現状などについて解説します。

 

教員に残業はない?教員に労働基準法は適用されないのか?

地方公務員である公立学校の教員は、労働基準法第37条の「時間外労働における割増賃金」の法律が適用除外となっています。

これは、公立学校の教員は、勤務時間の割振りを適正に行っているため、原則として、時間外勤務は命じないものであるためと、給料に対して一律に4%の定率を乗じた額の「教職調整額」が支給されるためです。
このような勤務条件の特例を定めたのは、教員については、一般的な事業会社の会社員や、一般行政事務に従事する職員とは異なり、教育が特に教員の自発性、創造性に基づく勤務に期待する面が大きいことや、夏休みのように長期の休業期間があることなど、「教員労働の特殊性」が理由として挙げられています。

正規の勤務時間を超えて勤務させる場合には、「政令で定める基準に従い条例で定める場合に限るものとする」とされる「超勤4項目」に該当すれば、時間外の割増賃金も発生しますが、臨時や緊急のやむを得ない必要があるときに限られています。(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法第5条及び第6条)

<超勤4項目>
・生徒の実習
・学校行事
・教員会議
・非常災害等やむを得ない場合

このため、公立学校の教員が行っている生徒指導や、部活動の顧問、学校の安全管理に関わる業務など、時間外に行っている仕事でも残業の対象から外されるため、実際の時間外労働に対する対価として残業代が払われているとは言えない現状となっています。

教員である公務員の具体的な勤務時間は給与負担者である各都道府県及び政令市の条例等によって定められていますが、労働基準法第32条の「使用者は、労働者に休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない」、「使用者は、1週間の各日については、労働者に休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない」の制約を受けています。

 

中学校の先生の6割が過労死ライン!教員の勤務実態調査の結果は?

平成29年4月28日に文部科学省から公表された2016年度に公立校の教員を対象に実施した「教員勤務実態調査」での学内での総勤務時間について、教諭(主幹教諭・指導教諭を含む。)のうち、 小学校では、1週間に55~60 時間の総勤務時間の割合を占める値が高く、中学校では、1週間に60~65時間の総勤務時間の割合が最も高い結果となりました。

この残業時間を1ヶ月に換算すると、「過労死ライン」である月80時間以上の時間外労働を超える教員が、小学校で3割、中学校では6割という状況となっています。

教員の毎日の出勤時刻の管理、退勤時刻の管理は、報告や点呼、目視などで管理職が出勤・退勤を確認することがほぼ半数を占めており、中には、朝、教員が出勤した後に、自ら出勤簿と呼ばれる帳簿に印を押してお終いという学校も4割を超えていました。

教員勤務実態調査(平成28年度)の集計(速報値)について(概要)  

 

学校における労働時間の適正把握とは?

平成29年2月に文部科学省は、各都道府県・指定都市教育委員会に対して「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」にて、具体的に以下のような対応を示しています。

1.始業・終業時刻の確認及び記録
使用者は、労働時間を適正に把握するため、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、記録する
2.始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法使用者が始業・終業時刻を確認し、記録する方法としては、原則として次のいずれかの方法による
ア 使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録する
イ タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録する
3.賃金台帳の適正な調製
使用者は、労働基準法第108条及び同法施行規則第54条により、労働者ごとに、労働日数、労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数といった事項を適正に記入しなければならない。賃金台帳にこれらの事項を記入していない場合や、故意に賃金台帳に虚偽の労働時間数を記入した場合は、同法120条に基づき、30万円以下の罰金に処される。
4.労働時間の記録に関する書類の保存
使用者は、労働者名簿、賃金台帳のみならず、出勤簿やタイムカード等の労働時間の記録に関する書類について、労働基準法第109条に基づき、3年間保存しなければならない。

ICTを活用して出退勤時刻の管理している小学校は16.6%、中学校では13.3%にとどまっています。
管理職も含めたすべての教員の勤務時間を把握し、適切な手段による勤務時間管理をしていくことは、労働法制上、また、業務改善を進めていく基礎として、校長や服務監督権限者である教育委員会に求められている責務となっています。

 

学校における働き方改革を!

「生徒のため」という教師としての「やりがい」だけで、無理な長時間勤務を続けさせるのは、やりがい搾取、健康障害、精神疾患による長期欠勤にもつながってしまいます。

教員の長時間労働を解消し、心身ともに健康な状態で子どもたちと接することは、社会として教育の質を高めることにつながります。

富山県教育委員会では、中学や高校の部活動について、原則として週2日以上の休みを設けるよう公立中学を監督する各市町村教委や県立高校などに平成29年12月13日付けで通知を出しました。

県教育委員会が教員の長時間勤務抑制が目的として、部活動について休みの日数を具体的に示したのは初めてとなります。部活動を巡っては、教員の負担が大きいとの指摘もあり、文部科学省では、教員に代わる外部の人材が顧問を務めることなどができる部活動指導員制度を導入する方向でいます。

国は、教員の働き方、職務内容の見直しや業務のあり方について検討するとしていますが、まずは、過労死基準を上回る長時間労働が学校の「常識」となっているこの状況を変えるため、ICTやタイムカード等により勤務時間を客観的に把握し、時間外労働の上限規制を設けていくことが、教員を守るための手段と言えるでしょう。