CLOUZA COLUMN

勤怠管理コラム

 

現代はメンタルヘルス不調を抱える従業員が増加し、厚生労働省の統計によると、精神疾患で治療中の患者数は100万人を超えています。
従業員が精神疾患を発症した場合は、正しい対応をしなければ重大なトラブルに発展する可能性があります。
実際に心の健康問題を抱えた従業員がいる場合、会社はどのように対応すれば良いでしょうか。
今回は、精神疾患で休職する従業員を例に休職トラブルを防ぐための正しい対応や留意点について解説します。

精神疾患の兆候の例とは

主に以下などがあります。

  1. 頭痛や耳鳴り・めまい・吐き気などの体調不良の訴えがある。
  2. 遅刻や欠勤が増える。
  3. 仕事のスピードや質が明らかに落ちる。
  4. 盗撮、盗聴、嫌がらせを受けているなどの被害妄想的な発言、独り言が出る。
  5. 悲観的な言動が増える。
  6. 睡眠不足の訴えが増える。

上記の内、悲観的な言動が増えたり、被害妄想的な発言をしたりするケースは比較的、精神疾患であることに気づきやすいです。

一方で、頭痛や耳鳴り・めまい・吐き気など、一見、精神的なものとは気づきにくい兆候が出ることも多く、それらが原因で欠勤や遅刻が増え、その傾向が続くときは、精神疾患の可能性も視野に入れた対応が必要です。

 

精神疾患の従業員に対する正しい対応方法

精神疾患が疑われる従業員がいた場合の、会社がとるべき対応ポイントを解説します。

医師の診断書を確認する
医師の判断なしには会社としての対応方法を決められません。
症状の悪化を防ぐためにも、まずは早めに従業員に医師の診察を受けてもらいましょう。

受診後は、病名や休業を要するか、休業が必要な場合はどのくらいの休業期間が必要かを記載した診断書を提出してもらいます。
これをもとに、働きながら治療するか、休職するかを会社が判断します。

後から「不当な扱いを受けた」、「休職するほどではなかった」と従業員に訴えられる可能性がありますので、本人が苦しそうだからといって早計に休職の判断を下さないようにしましょう。

業務の引き継ぎを進める
休職が決定した場合は、速やかに業務の引き継ぎを行います。

ただし、 「一刻も早く休む必要がある」と医師に診断された場合は、該当従業員をすぐに休ませましょう。
休職に入るのが遅れると精神疾患が悪化する危険があり、会社の責任を問われる可能性があります。
休職者が担当していた業務の後任者を早急に決めて、要点を押さえた引継ぎができるように工夫しましょう。

休職期間が長期にわたる場合は、派遣従業員を受け入れ、業務の一部を外注する、他部署から人員を補充するなど、休職期間中にスムーズに仕事が回るように他の従業員のフォローを忘れないようにすることが大切です。

また、従業員に精神疾患の兆候が出た場合は、「会社の労務環境に問題がなかったか」を確認することが必須です。
精神疾患は、私生活上のストレスで発症することもありますが、最近は職場の環境や過重労働により発症するケースも多いため、場当たり的に対応するのではなく、根本的な原因を追究し解決していくことが重要です。

 

休職制度や休職中の会社の対応について

休職について労働基準法で決められたルールはありませんので、就業規則に則って、会社の対応を決めます。
労使間のトラブルを未然に防ぐためには、就業規則で休職中の処遇や休職期間終了後の対応についてルールを定めておき、内容を従業員に周知することが大切です。

また、就業規則に休職に関する規定を設けていない場合は、休職中の賃金の有無、保険料の支払い、休職後の処遇などを記載した書面を、休職する従業員に渡すと良いでしょう。

1.休職事由、休職期間
休職事由とは、どのような場合に休職を認めるかを定めたものです。
「会社が認めたとき」、「◯ヶ月以上、欠勤が続いたとき」など、就業規則によって定め方が異なります。
「◯ヶ月以上」と期間を定めているようなケースで、間違って指定の期間が過ぎる前に休職を開始してしまうと、万一、訴訟に発展した場合に不利になる可能性があるため、よく確認する必要があります。
2.休職中の賃金
法律上は、休職中に賃金を支払う義務はありませんが、就業規則で「休職中も給与を支払う」と定めている場合は支払う義務が発生します。
3.休職中の社会保険料の負担
休職中も社会保険料は発生します。
休職期間中、無給の場合は給与から保険料を差し引くことができないため、毎月従業員から会社に振り込んでもらう、あるいは会社が立て替えておき復職時にまとめて徴収するなど、休職中の社会保険料の徴収方法について事前に合意しておきましょう。
4.復職する場合の手続き
復職を希望する際の手続きの流れや、復職に向けて会社からどのような支援があるのか、復職後の働き方(時短勤務や配置転換など)について従業員と認識を合わせておきましょう。
5.休職中の連絡方法
連絡窓口や連絡の頻度、方法、内容を事前に取り決めておきます。
休職中、本人と連絡が取れなくなったときのために従業員の家族の連絡先も確認しておきましょう。
6.傷病手当金の手続き方法、必要書類の整理と案内(申請する場合)
傷病手当金は、会社から十分な報酬を得られない際に一定の要件を満たした場合、通常の給与の3分の2程度の金額が支給される制度です。
手続き方法や必要な書類などを休職する従業員に案内しましょう。

>>厚生労働省 心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引

 

万一、解雇を検討するときの留意点

精神疾患で休職している従業員に復職できる見込みがない場合、退職や解雇の可能性を考慮せざるを得ない状況も考えられます。
不適切な対応をすれば不当解雇で訴えられ、多額の慰謝料を請求されるケースもありますので、以下の点に注意しましょう。

1.安易に解雇することはできない
休職が何ヶ月も続いたような場合でも、いつ従業員が戻ってくるか分からないことを理由に会社が一方的に従業員を解雇することはできません。
最終的な判断権は会社にありますが、主治医と会社の産業医に相談した上で行う必要があります。
時短勤務、軽作業・定型作業への転換など、労務負荷の軽減により復職できるケースもあるため、復職の可否判断は慎重に行いましょう。
2.復職判断では主治医と産業医の意見が異なるケースがある
主治医と産業医は同じ「医師」ですが、双方の役割の違いから復職判断の際に意見が異なる場合があります。
主治医は基本的に患者の立場に立ち、患者が日常生活を送ることができるレベルまで回復したかを判断します。

一方、産業医は従業員が業務を遂行できるレベルまで回復したか判断することを専門としており、診断・治療は行いません。

そのため、主治医が「復職可能」と判断しても、産業医からすれば「まだ早い」と判断するケースもあり、両者の間で意見が分かれることがあります。
就業規則には産業医の判断により復職可能か決定する文言を入れ、周知しておくと良いでしょう。

 

まとめ

今回は、精神疾患の従業員への正しい対応方法や留意点などについて解説しました。
精神疾患による休職者の対応は、人事労務業務の中でも慎重に対応しなければならない仕事の一つです。
休職者とのトラブルも年々増加しており、誤った対応をすれば損害賠償請求など会社の責任を問われることになりかねません。

自社の休職制度を理解し、休職者に対する正しい対応を知ることで、労使間の無用なトラブルを防ぎ、安心して働ける職場環境を整えていきたいですね。