CLOUZA COLUMN

勤怠管理コラム

労働者が退職すると、会社には、補充要員を探す、引継ぎをするなど多くの仕事が発生します。
そういった準備の時間を確保するため、「労働者が退職する際は、30日前までに会社に退職届を提出しなければならない。」という規則を定めている会社も少なくありません。
しかしこの規則に反して、「今日辞めたい。」と言われた場合、これを引き留めることはできるのでしょうか。
今回は、このような退職までの期間に関する問題についてお伝えします。

退職に関する法律の定め

退職に関する法律は、民法に規定がありますが、雇用期間の定めがあるかないかによって、異なります。

雇用期間の定めがある場合
民法628条によると、雇用期間が契約によって定められている場合、原則として、労働者はその日まで退職することができません。
ただしやむを得ない事情がある場合は、退職することができます。
例えば、自身の病気や家族の介護などは、やむを得ない事情に当たる可能性が高いでしょう。

また労働基準法附則137条により、契約期間の初日から1年以上経過している場合は、期間の定めがあったとしても、労働者はいつでも退職できるとされています。
ただしこれは原則として、1年を超える契約期間が定められた場合です。

雇用期間の定めがない場合
いわゆる無期契約の場合は、民法627条により、労働者はいつでも退職を申し出ることができ、申出から2週間経過することによって、雇用関係が終了するとされています。
したがって法律上、労働者は退職日の2週間前までに退職の申出をすればよいということです。

一方で「今日辞めたい。」など、退職日まで2週間に満たない申出の場合、会社はこれを拒否することができます。
ただし、仮に当日辞めるという申出を拒否した場合でも、申出の日から2週間経過することによって、雇用関係は終了します。
とはいえ、2週間は今までと同様、雇用契約が継続しますので、引継ぎなどの業務命令を下すことができます。

 

就業規則に退職の定めがある場合

引継ぎなどに要する時間を勘案すれば、退職日の2週間前に言われても遅すぎる、とお考えの方も少なくないと思います。
実際多くの会社では、就業規則などで、「労働者が退職する際は、30日前までに会社に退職届を提出しなければならない。」と定めていると思います。
それでは就業規則と、民法の規定とではどちらが優先されるのでしょうか。

これについては、法律に明確な根拠があるわけではなく、見解の分かれるところです。
まず「半年前までに申し出ること。」など、極端に労働者の自由を制限する就業規則は無効であると考えられます。
一方で30日前程度の常識的な期間であれば、就業規則が優先されるという見解もあります。

とはいえ、必ずしも就業規則が優先されるとは限らない以上、就業規則の定めはあくまで社内的な決まりと割り切るのも1つの手だと思います。
社内のルールとして、労働者に対して、30日前に退職を知らせてくださいというようにお願いをし、どうしてもそれを守ってもらえない時には、退職の意思表示から2週間が経過した時点で退職を認めるという方法です。

退職における社内のルールを守ってもらえない時点で、関係性がこじれているなど何らかの要因が考えられます。
そのような労働者を無理につなぎとめるよりも、この2週間で、できる限りの引継ぎをしてもらったほうがよいかもしれません。
対応を決めかねるという場合は、弁護士や社会保険労務士などに相談するという手もあります。

 

引継ぎしない労働者の退職金を不支給とできるか

退職時に労働者との関係性がこじれていると、退職者による業務の引継ぎが十分に行われない場合があります。
このような場合、引継ぎをしない労働者に対して退職金を支払いたくないというご意見もありますが、退職金の不支給は認められるのでしょうか。

そもそも退職の際引継ぎを行うのは信義則上の義務であると考えられているため、引継ぎを行わずに退職することは義務違反です。
しかし退職金の全額不支給は、基本的に認められません。
退職金はそれまでの勤続に対する報償という側面があり、最後に引継ぎをしなかったからといって、今までの功績が全て否定されるということは、考えにくいためです。

一方で、一切の引継ぎがされないなど悪質なケースについては、退職金の一部減額が認められる可能性があります。
その場合根拠が必要ですので、就業規則などに「退職する労働者には適切に引継ぎを行う義務がある。」、「引継ぎを行わなかった場合は、退職金が○%減額されることがある。」といった規定を作っておくことが望ましいでしょう。

 

引継ぎしない労働者への損害賠償の可否、退職時の有休について

引継ぎが行われなかったことにより仕事の遂行に支障をきたし、会社が経済的な損失を被ったため損害賠償を請求したい、というご意見を耳にすることがあります。
しかし損害賠償は非常に困難です。
損害賠償を請求するには、「引継ぎをしなかったこと」と「損害」との因果関係を立証しなければならないため、現実的にはなかなか認められないと考えられます。

また、退職時には有給休暇取得を巡るトラブルが発生しやすくなります。
特に多いのは、溜まっている有休を一気に取得してから辞めたいという労働者にどう対応すればよいのかという問題です。

有休に関しては基本的に労働者が取りたいと言えば取らせるほかなく、例外的に事業の運営に支障が出る場合に、取得の日時をずらしてもらうことができます。
しかし退職日が決まっていては、それ以後に有休取得をずらしてもらうことはできません。
したがって有休を一気に消化したいという申出を断ることは難しく、引継ぎなどの問題が発生する場合は、退職日をずらしてもらうよう労働者にお願いするくらいしか対応策がないのが現実です。

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