「仕事と治療の両立支援」 がん就労者を受け入れるための労務管理とは?
日本では2人に1人は「がん」になると言われており、がん患者の約3人に1人は、20歳から64歳までの就労可能年齢で、「がん」に罹患しています。
「がん」と診断されて退職した患者の内、診断がされてから最初の治療が開始されるまでに退職した方が4割を超えているとのデータがあります。
平成28年10月24日 厚生労働省から公表「第2回働き方改革実現会議 治療と仕事の両立等について」
がん患者・がん経験者においては、働く意欲・能力があっても、治療と仕事の両立を可能にする体制が職場において不十分であるために、就労の継続や復職が困難になっています。
がん患者・がん経験者の「働きたい」という想いと企業の「働いてほしい」という双方の合意、また、就業によって病気に影響することによる制約等の範囲内での勤務が可能な場合、治療と仕事の両立のため、会社としてがん就労者を受け入れる体制を整えることは大切だと言えます。
がん就労者の仕事と治療の両立支援として、会社の取り組みについて解説します。
がんと治療
がんは、場所や大きさ、広がり、周辺のリンパ節への転移の有無など個人差もありますが、0~Ⅳ期までの5つに分類されます。
0期に近いほど「がん」は小さくとどまっている状態、Ⅳ期に近いほど「がん」が広がっている状態を指します。がんの部位によって異なりますが、Ⅰ期の比較的早期のがんであれば、がん罹患後5年生存率は9割を超えています。
がん医療の質の向上に伴い、「がん=不治の病」ではなく長く付き合う病気に変化しつつあり、がんに罹患した後でも、治療しながら長期生活していける世の中になっています。
がんの治療方法は、手術、薬物療法、放射線治療が三大療法と呼ばれており、いずれかの治療を単独、もしくは組み合わせて実施されます。
手術は外科的にがんを切除するため、入院が必要となりますが、内視鏡手術など体への負担を軽減する技術が発達してきており、入院期間は短くなる傾向にあります。
放射線治療は手術と異なり、体に傷をつけることなくがんを小さくしたり、その部位に現れるのを防いだりする治療です。
がんの種類によって効果は異なりますが、外来での通院治療が多くなってきています。
従業員から報告・相談があった時は?
「従業員としっかり向き合う」ということが最も重要となるため、まず、従業員の立場に立って、お見舞いの言葉をかけることを忘れないようにしましょう。
また、会社を辞める決断をすぐにする必要はないことを伝え、会社としての両立支援に対する基本方針や考え方等を説明していきます。
どのような支援を行っていくかを検討するために、以下のような情報を従業員から聞くようにしましょう。
【両立支援の検討に必要な情報】
- 症状、治療の状況
- 現在の健康状態や症状
- 通勤または勤務の可否と影響を及ぼす症状、今後想定される副作用の内容
- 治療の内容(抗がん剤治療の有無等)や当面の治療スケジュール
- 入院や通院の要否とその期間、通院の場合は受診頻度
- 退院後・通院治療中の就業継続の可否に関する意見
- 望ましい就業上の措置(避けるべき作業、時間外労働や出張の可否等)
- その他配慮が必要な事項に関する意見
- 仕事に対する想いや希望
会社としての治療と職業生活の両立支援対応は?
会社として、主治医等や産業医等の意見を勘案し、就業を継続させるか否か、具体的な就業上の措置や治療に対する配慮の内容、実施時期等について検討を行い、その結果を従業員に伝えていくことになります。
短時間の治療が定期的に繰り返される場合等に対応できる主な休暇・勤務制度として以下のものがあります。
【休暇・勤務制度の整備】
<休暇制度>時間単位の年次有給休暇、傷病休暇・病気休暇
<勤務制度>時差出勤制度、短時間勤務制度、在宅勤務(テレワーク)、試し出勤制度
休職期間に入る場合は、安心して治療に専念することができるように、あらかじめ休業について以下のような情報を提供しておく必要があります。
- 休職可能期間や休職中の給与等の取り扱い
- 休職中に利用できる健康保険や会社の制度
- 休職中の会社との連絡の取り方(頻度や方法、連絡窓口)
- 相談窓口(休職中の職場をフォローする上司や同僚など)
- 復職の手順等
治療と仕事の両立支援制度をおこなう際に使える助成金
平成30年4月から、障害のある労働者やがん等の反復・継続して治療が必要となる傷病を抱える労働者が、障害や傷病の治療と就労とを両立するために環境整備を行った場合と両立支援制度を活用した場合に国が企業に対して助成金を支給する「障害者雇用安定助成金(障害・傷病治療と仕事の両立支援助成コース)」があります。
【環境整備助成】
配置した専門人材に応じて、下記の額が支給されます。
- 企業在籍型職場適応援助者を配置した場合 30万円
- 両立支援コーディネーターを配置した場合 20万円
【制度活用助成】
以下の2つを新たに行った場合に20万円支給。 (労働者1人あたり)
- 両立支援制度の労働者への適用
- 適用した労働者の6ヶ月以上の雇用維持及び両立支援計画の期間内の一定日数以上の勤務
関係者間の円滑な協力体制が必要
事業主や人事労務担当者等のがん就労者に対する理解及び配慮は、治療と仕事の両立支援に不可欠な要素です。
このため、事業主や人事労務担当者等は、積極的に本人との面談を行う等、普段から顔の見える関係を構築することが必要です。
厚生労働省から平成30年4月24日に「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」が公表され、H29年度に作成された難病に関する留意事項、企業・医療機関連携のためのマニュアル(全体版)も加えられています。
このガイドラインでは、治療が必要な疾病を抱える労働者が、業務によって疾病を増悪させることなどがないよう、事業場において適切な就業上の措置を行いつつ、治療に対する配慮が行われるようにするため、関係者の役割、事業場における環境整備、個別の労働者への支援の進め方を含めた事業場における取組がまとめられています。
企業として、従業員の治療と就労の両立を図るための取組をおこなっていくことは、従業員の健康確保対策の一部でもあり、働き方の多様性や柔軟性を育んでいくことに繋がります。
この両立支援を通じて、従業員の安心感やモチベーションの向上による、人材の定着・生産性の向上や継続的な人材の確保、企業の社会的責任が実現されていくといえます。