CLOUZA COLUMN

勤怠管理コラム

台風による交通機関の乱れ、最悪の場合は、交通機関がストップしてしまい、会社までたどり着けない・・・。そんな経験をしたことはありませんか?

会社と住居が近い労働者であれば、台風が来たとしても通常通り始業時間までに出勤が可能ですが、会社と住居が遠い労働者は、交通機関の状況によっては会社を休むことになり、労働者がどこに住んでいるかによって、出勤状況は変わってきてしまいます。

台風や地震等の自然災害の影響で交通機関に支障が発生した際における、会社としての対応について解説します。

 

法的には、労働提供がなければ、賃金支払義務がない

会社で雇用されている労働者には、「労務提供の債務」があり、使用者が指定する勤務地で弁済(勤務)を行うのが原則となっています。
この労使の合意によって締結した労働契約には、“双務性”があり、労働者は労務の提供を行った場合に、その労働の対価である賃金の支払を使用者に請求する権利が発生します。

したがって、労働者が自然災害によって欠勤や遅刻をしたために仕事をしなかった日や時間がある場合には、会社にその分の賃金を支払う義務は発生しないということになります。

これを「ノーワーク・ノーペイの原則」と言い、適用するには労働者が労務を提供できなかった原因が、「労働者側の責任である」か、もしくは自然災害で出勤できないケースなど、「労働者と使用者のどちらの責任でもない」ことが必要条件となります。

また、使用者側の都合により休業しなければならならず、労務の提供ができない状態であれば、使用者は、休業期間中について当該労働者に、その平均賃金の6割以上の手当を休業手当として支払わなければならないと労働基準法第26条には定められています。

 

台風襲来時、帰宅命令を出した場合の処理は?

例えば、台風の襲来により交通機関が止まる恐れがあったために、午後2時以降業務に支障のない限りにおいて、順次帰宅との命令を会社が全労働者に出したような時はどうでしょうか?

この場合は、会社の「命令」で労働者に帰宅をさせるので、労働者側に決定権はなく「会社都合」で帰宅すると考えられます。
命令発生時点では、まだ会社や労働者に何の被害もない状態ですので、天変地変による休業とは認められず、予防的な「帰宅命令」となるので、会社都合で労働時間を繰り上げて労働を免除したとの取扱いですので、会社には休業手当の支払い義務や労働時間のみなしとして通常通り賃金を支払う義務が生じると言えます。
その一方で、会社命令ではなく「労働者に帰宅の判断を任せるような会社の指示」であれば、帰宅するかどうかは労働者の判断によるため、休業手当の支払い義務や労働時間のみなしの扱いがないとも考えられます。

 

ノーワーク・ノーペイの原則に対する緩和措置

厚生労働省が平成28年5月20日に熊本地震の震災被害により出勤できなかった労働者の賃金の取扱いについて「平成28年熊本地震に伴う労働基準法等に関するQ&A(第3版)」を公表しました。

その中に記載されているQ9-2では、

「労働契約や労働協約、就業規則等に労働者が出勤できなかった場合の賃金の支払について定めがある場合は、それに従う必要があります。
また、例えば、会社で有給の特別な休暇制度を設けている場合には、その制度を活用することなども考えられます。
このような定めがない場合でも、労働者の賃金の取扱いについては、労使で十分に話し合っていただき、労働者の不利益をできる限り回避するように努力することが大切です」

と記載されています。

従業員本人の落ち度ではない台風等のような自然災害を原因とする欠勤や遅刻の場合には、ノーワーク・ノーペイの原則にとらわれず、会社の裁量により特例措置を行うこともできます。
その時の状況(警報発令地域、残った労働者と帰宅した労働者の割合や仕事の進捗状況、不公平感等)により、バランスを考えて勤怠時間やその賃金について柔軟な処理を検討すべきでしょう。

自然災害時には、みなし労働や年次有給休暇を充当して遅刻扱いにせずに賃金控除を行わないといった処理を行っている会社も多く見受けられます。

 

天災・悪天候下での勤務に関する判断基準は?

会社は、従業員に対してその生命・身体等の安全を確保しつつ労働することができるように必要な配慮をおこなうこととする安全配慮義務を負っています。

自然災害が起きた日などに、会社が強制的に出社させて労働者が怪我した場合、使用者は安全配慮義務違反の損害賠償責任を負う可能性があります。出社が困難なほどの台風であれば、出社できないのはやむを得ない(不可抗力)ですから、従業員は出社の義務が免除されるとも考えられます。

台風などの自然災害によって電車が全線全面運行停止となれば、会社として、出勤させず待機等の判断を行い、会社として緊急連絡網を利用し、一斉に従業員へ連絡をするのが理想的な処理と言えます。

あくまでも、労働契約においては、会社としての判断によって対応していけるよう、普段から自然災害時の事前のアナウンスや自宅待機とする際の連絡方法などには検討しておくべきでしょう。
災害の規模や業種にもよりますが、例えば、帰路に障害が多いと思われる遠隔地の方から随時帰宅させ、最終的には帰宅への障害が無いよう全員帰宅させる等、企業側の安全配慮義務の観点から帰宅させるという方法もあります。

 

自然災害発生時の勤怠・賃金の取り扱いについて

自然災害による遅刻、早退、欠勤等の正常な業務が行えない場合ついては、ノーワーク・ノーペイの原則による賃金カットにこだわらずに、社内での取り決めによって勤務の取り扱いを行い、労働者全員に周知徹底をすることで、社内秩序の維持を考えていくことが有益です。

もちろん、災害状況によっては臨機応変な行動も必要な場合が生じるとはいえますが、災害発生時の連絡体制の定めや不可抗力の定義、適用範囲、ノーワーク・ノーペイの緩和措置等、会社においてあらかじめ規定することでリスクを低減させることにも役立つと言えるのではないでしょうか。
また、緊急時には事業を継続させるための柔軟な勤務体制として、業務の状況を確認しつつ、前日泊、自宅待機、在宅勤務、時差出勤、早朝出勤などを導入しておくことも対策のひとつとなります。

自然災害は突発的に起こりますが発生頻度は低いこともあり、特に中小企業にとっては十分な対策をしづらい事柄かもしれません。しかし、多くの企業に共通して発生することが予想されます。

会社は従業員・顧客の生命身体の安全に配慮する必要があるということを認識し、想定されるリスクについて、何が優先事項なのかを見極めて対策を考えておくことが重要です。

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