「ワークライフバランス」への取り組みで社員がイキイキと働ける会社作りを
ワークライフバランス憲章(2007年制定)には、「仕事と生活の調和」を実現するために、国、会社、働く人が一体となってワークライフバランスに取り組むことが謳われています。
仕事中心の生き方から、私生活も大切にした働き方が今、求められています。
出典:内閣府 仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章
なぜワークライフバランスが中小企業にとって大切なのか
残業が多く、休みがとりにくい職場では、育児や介護に直面した場合、働き続けることは難しくなります。
また新入社員の人気企業は福利厚生の充実している大企業が多く、中小企業は人材確保に苦慮している場合が少なくありません。
優秀な社員に選ばれる会社になると同時に、今働いている社員の能力を活かし、事業継続と成長につなげる戦略として、ワークライフバランス、つまり社員の私生活を尊重した働き方ができる職場に変えていくことをお勧めします。
長時間労働や休みが取れない状況が続くと、社員がメンタルヘルス不調に陥る可能性が高まります。
このため2014年には過労死等防止対策推進法が施行、2015年には50人以上の会社では社員へのストレスチェックが義務となりました。
メンタルヘルス不調者や離職者を出さないためにも、今後は中小企業も積極的に社員のワークライフバランスに向き合う必要があるということです。
出典:厚生労働省 過労死等防止対策に関する法令・過労死等防止対策推進協議会
出典:厚生労働省 ストレスチェック等の職場におけるメンタルヘルス対策・過重労働対策等
また会社がワークライフバランスに取組むと、育児、介護、地域参加、趣味、自己啓発などを通して社員にとっては私生活上の経験が豊かになり、心身共にイキイキと働くことにつながります。
長時間労働は取引先の理解や人手不足に起因していることもありますが、業務体制の見直し、社員間の意思疎通の強化、ITツールを導入することなどによってもかなり改善できるはずです。
以上のことから、ワークライフバランス=「人材育成・活用」+「業務の効率化」と考えてみてはいかがでしょうか。
ワークライフバランスに取り組む企業の例
[A社]
~1989年から現在に至るまでずっと年次有給休暇の取得率100%を達成~
社員数 約1300人 菓子製造・販売会社
A社は「従業員が健康でなければおいしいお菓子は作れない」という社長の信念のもと、社員の心身の健康を維持するために、年次有給休暇の完全取得を掲げて取り組みました。
取り組み以前は長時間労働、休暇が取れない職場であったものの、効率化できると経営判断したものには設備投資を行い、社員やパートの雇用拡大、部下の有給休暇取得を部門長へ指示、社員の意識啓発を行うなどを実行して、毎年目標を達成しています。
また、職場・個人ごとの有給休暇の計画表作成と取得状況を毎月確認し、進捗状況が遅れている場合の対策まで立てるルールとなっています。
社長が社員に望むのは、有給休暇は単に休む(消化する)のではなく、「自分磨き」として利用することであり、そのために、社員6人の旅行には社員旅行として認定する制度も作りました。
制度利用者には1人年間最大20万円の補助金を出すことで、社員が広く利用しています。
こうして有給休暇を完全取得することがあたり前になり、休むために、社員間での情報共有や仕事の効率化に社員自ら積極的に考えるようになったということが、この会社のサービスや商品にも影響し、今では全国で多くのファンを抱える有名菓子製造・販売会社として不動の地位を築いています。
[B社]
~拡大路線から社員一人ひとりが幸せを感じられる会社に~
社員数 43名 専門商社
B社は、創業以来お客様を第一に考えた働き方を求めていましたが、いっぽうで、社員は長時間労働と休日出勤により疲弊し、退職者が後を絶たないという状況が続きました。
そのため、これまでの拡大路線から社員の幸せを第一にした働き方に舵をきり、長時間働くことで無理に売り上げを伸ばし続けるのではなく、無理無駄なコストや時間を徹底して削減することで利益が確保できる会社へと徐々に変えていくことで、社員の私生活の時間を捻出することにしました。
B社ではすべての業務を2.3人の体制にして情報の共有化をすすめると同時に特定の社員への仕事の偏りを解消しました。
また、業務の効率化につながるシステムを早期に導入し、ペーパーレスな環境も整えています。
さらに、社員同士のコミュニケーションが取りやすいように、机や椅子、出張時の日当など職位による差をなるべく排除したほか、机のレイアウトの工夫や懇親会の機会等を多く設けることなどを行いました。
こうしてB社では、年間労働時間を1800時間、全社員が残業ゼロという働き方を実現しています。
ワークライフバランスに有効な制度
一律の労働時間ではなく、社員の事情に合わせて柔軟に時間が使えると、より一層仕事と生活の調和が図りやすくなります。
2010年の改正労働基準法では、労使協定の締結を前提に5日までの時間単位の年次有給休暇制度が使えるようになりました。
この他にもフレックスタイム制度や始業終業時間の繰り上げ下げの制度があると、働きやすくなります。
ワークライフバランスに取り組むうえで大切なことは、育児をしている社員だけに目を向けるのではなく、会社で働く人すべての人の人生を豊かにするためのものであるという視点です。
そのために会社は、社員一人ひとりの労働時間を把握し、特定の人に負荷をかかっていたら改善するなどの労務管理をしていくことが重要です。
【原稿執筆者】
新田 香織
特定社会保険労務士、キャリア・コンサルティング技能士2級
グラース社労士事務所代表 http://grasse-sr.com
育児や介護等のライフイベントがあっても自然に働ける社会、誰もが能力を発揮できる社会の実現を目指して社会保険労務士の立場から企業コンサル、研修、執 筆活動等を続けている。主な著書に「仕事と介護両立ハンドブック」(生産性情報センター)、「さあ、育休後からはじめよう」((共著)労働調査会)など多数。