CLOUZA COLUMN

勤怠管理コラム

会社は、従業員の生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をすべき義務があります。
この義務を安全配慮義務といいます。(労働契約法5条)
台風などの自然災害時やインフルエンザ等の感染症に罹患した従業員に対して会社が取るべき安全配慮義務とそれに伴う賃金の取り扱いについて説明いたします。
>>労働契約法5条

 

自然災害発生時の安全配慮義務

自然災害発生時に就労を制限する法律上の決まりはなく、帰宅命令等の指示は会社の判断に委ねられています。
会社は、従業員に対し安全配慮義務を負っており、交通機関の乱れや自然災害発生時に高まる通勤事故のリスクを回避するため、実際には通常通り勤務可能な状態であるにもかかわらず、従業員を帰宅または自宅待機させている会社は多いと思います。
このような対応をした場合、その日の賃金の取り扱いはどうなるでしょう?

 

自然災害発生時の休業の取り扱い

労働基準法26条では休業手当について「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合は、平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。」と定められています。
従業員が帰宅する時点でその日の賃金が平均賃金の6割を超えないときには、すでに労働した分の賃金と平均賃金6割に達する分との差額を支払う必要があります。
休業には、労働者に決定権がある休業、会社の都合により決定された休業、労使どちらにも責任のない不可抗力による休業の3つがあります。
会社都合による休業は休業手当の支払いが生じ、不可抗力による休業は「使用者の責めに帰すべき事由」に該当せず、休業手当を支払う必要はありません。
台風や地震等の自然災害は「不可抗力」「使用者の責に帰すべき事由」どちらに該当するのでしょうか?
>>労働基準法26条

 

自然災害発生時の「不可抗力」の判断は?

台風や地震等の自然災害は、会社が十分に注意していても、避けられるものではないため「不可抗力」と認められます。
ただし、多くの場合は、通勤事故のリスク回避のため、交通機関の乱れや被害が発生する前の「可能性の段階」で休業としていることでしょう。
「可能性の段階」での休業は「不可抗力」とは認められず、休業手当を支払う必要があります。
ただし、「可能性の段階」での休業だとしても、会社の業務命令としてではなく、帰宅または自宅待機の判断を労働者に委ねる場合は、休業手当の支払い義務は生じません。
また、台風や地震により会社の施設の倒壊や設備の破損等、直接的な被害を受け、就業不能な場合は、「不可抗力」により休業手当を支払う必要はないと考えられます。

 

感染症罹患時の安全配慮義務

「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下、「感染症予防法」という)では、新型インフルエンザやO-157などは就業制限や就業禁止になるものの、季節性のインフルエンザやノロウイルス(以下、「インフルエンザ等」という)は五類感染症に分類され、原則、感染しても就業制限はありません。
しかし、インフルエンザ等の感染症に罹患した従業員及び同居の家族が罹患した従業員が出社することで、他の従業員へ感染し、業務に支障をきたすようでは、会社として安全配慮義務を怠ったことにもなりかねません。
安全配慮義務の観点から、会社としては、従業員の健康を損なう危険の回避、業務を適正、快適に行うための配慮等が必要であると考えられます。
そこで、感染症に罹患した従業員を休業させる場合、賃金の取り扱いはどうなるでしょう。
>>感染症の範囲及び類型について

 

感染症による休業時の賃金の取り扱い

インフルエンザ等で会社を休んだ場合、一般的には年次有給休暇での対応が多いと思います。
しかし、まだ有休を付与されていない者、有休の残日数がすでにない者、年次有給休暇の取得を拒否する者が休んだ場合は、休業手当の支払いが必要となるのでしょうか。

1.インフルエンザによる発熱により自主的に休んだ場合
風邪による病欠と変わらないため、その日は欠勤控除となり、休業手当を支払う必要はありません。
2.医師の指導等に従って休んだ場合
「使用者の責に帰すべき事由」に該当しないため、休業手当を支払う必要はありません。
ただし、医師の指導等の範囲を超えて休業させる場合には、「使用者の責に帰すべき事由」に当たり、休業手当を支払う必要があります。
3.同居する家族がインフルエンザ等に罹患した従業員を休ませる場合
同居する家族が罹患していたとしても、就業が可能である従業員について、会社の判断で休ませる場合には、「使用者の責に帰すべき事由」に当たり、休業手当を支払う必要があります。
4.無理に出勤しようとするインフルエンザ等に罹患した従業員を休ませる場合
インフルエンザ等に罹患していても「働ける」と主張して出勤しようとした従業員を会社が無理に休ませた場合は、「使用者の責に帰すべき事由」に当たり、休業手当の支払いが必要となりますので、会社が就業の判断をする前に医師の診断が必要になると考えます。

 

まとめ

安全配慮義務の観点から、従業員を休業させるためには、就業規則によるルール作りが求められます。
また、就業可能な従業員には、テレワーク等により、勤務先以外の場所でも仕事が可能な環境を整え、従業員の収入に影響が出ないような制度づくりをすすめることも、今後は期待されるところであると考えます。