CLOUZA COLUMN

勤怠管理コラム

「日本人は勤勉で働き者」そんなことをよく聞きますが、実際の平均労働時間はどうなのでしょうか。
日本と世界の平均労働時間を比較してどの程度日本人が長く働いているのかを確認し、その上で、日本における労働にまつわるトラブル、例えば残業代未払い請求や働きすぎ、最悪の場合、過労死などの問題も生じています。
今回は労働時間の実態と未払い残業代トラブルに焦点を当てて解説します。

 

日本人の平均年間労働時間について

まずは、世界各国の全就業者の平均年間実労働時間(パートタイムを含む)を国別にランキング化した、OECDによる統計データをみてみましょう。

平均労働

日本人は、年間1710時間働いており、日本のランキングは世界と比較しても38か国中22位とそれほど高い訳ではない結果が出ています。
日本の働く労働時間は改善されているとデータ上は言えるのかもしれません。
しかし、これが本当かどうかは定かではありません。
なぜなら、日本は「サービス残業」という文化があるためです。

>>世界の労働時間ランキング‐日本は世界で22位と労働時間はそれほど長くない?

 

サービス残業とは?

サービス残業とは、「雇用契約で決められた労働時間外の労働時間に対して賃金が支払われない労働のこと」を指します。
企業がサービス残業を強いることは、労働基準法に違反する行為です。 「定時が過ぎても仕事が終わるまで帰らせてもらえない、残業代もつかない」、「朝礼のために定時より前に出社」というサービス残業の経験がある人も多いのではないでしょうか。
サービス残業は記録に残らない分、なかなか実態を把握しにくい違法労動です。
2014年に日本労働組合総合連合会が3000人に行ったアンケート調査で、サービス残業の有無を確認したところ、「ある」が42.6%、「ない」が57.4%という結果になっています。
実に4割以上の従業員がサービス残業を行っていることが判明しています。
また、同調査では、1ヶ月の平均的なサービス残業は16.7時間です。
10時間未満が59.7%、10時間から20時間未満が16.8%との結果が出ています。
調査には正規従業員、非正規従業員、一般社員から課長クラスまで含まれており、それぞれの平均時間は異なります。
例えば役職別に平均時間をみると、一般社員は18.6時間、主任クラスは19.6時間、係長クラスは17.5時間、課長クラス以上は28.0時間になります。
役職が上がるほど、残業時間も長くなるという結果です。
役職が上がるにつれて責任も増すせいか、サービス残業が増えてしまう傾向にあるようです。
>>なぜ無くならない?サービス残業の実態と、自分の身を守る3つの方法
>>日本労働組合総連合会「労働時間に関する調査」

 

サービス残業が発生する理由

サービス残業が発生する理由は、主に会社側の事情が大きいかもしれません。
主に「法令順守意識の低さ」、「コストカット」の2つが挙げられます。

1.法令順守意識の低さ
会社の経営者や人事の担当者が労働基準法の知識が乏しい場合、社員にサービス残業をさせてしまいがちです。
サービス残業をさせることは法律違反だということに対し、意識がまだ低いようです。
そして名ばかり管理職のように拡大解釈をすることでサービス残業を正当化している会社も少なくない実態があるかもしれません。
2.コストカット
不景気になったり業績が悪化したりすると会社側はまず人件費のコストカットを考えます。
ここで業務の効率化がはかられ、少ない人数でも業務を回せるようになれば良いのですが、大体の会社は人員の削減を行なったとしても全体の業務量が減ることはあまりないため、単純に一人一人の仕事量が増えるだけのことが多いようです。

人件費の削減のために人員を減らしたにも関わらず通常の業務時間では終わらず残業が増えます。
従業員の残業が増えようとも断固として残業代を払わない、これが「未払い残業代トラブル」に発展してしまいます。
>>なぜ無くならない?サービス残業の実態と、自分の身を守る3つの方法

 

未払い残業代を巡るトラブルとリスク

未払い残業代を巡るトラブルは、労働者が訴えを起こしやすく、弁護士にも依頼しやすいトラブルです。
最近、この問題を専門にする弁護士も増えてきています。 たとえば社員が退職時には何も言わなかったとしても、法的に正しく残業代が支払われていないことが何らかの形で証明されれば、後から会社は未払い分の残業代の支払いを免れることはできません。
さらに訴訟になれば、未払い残業代に加えて遅延損害金として在職中は6%、退職後は14.6%が加算されます。
また、最大で未払い残業代と同額の付加金までが使用者側である企業に課されてしまうケースもあります。 付加金は本来の残業代の額と同額までの範囲でペナルティの意味合いを持つ金銭の支払いを命じられます。

 

残業代未払い請求を予防する対策

労働者からの残業代未払い請求の対策は、「いくら残業させても残業代を支払わなくてよくする」ことではもちろんありませんので、基本的には残業した分に対しては支払いの義務があります。
そこで、残業をさせないための対策や残業代の支払いを最低限で済むように法的な対策をとっていくことは可能です。
主な対策としては以下のようなものがあります。

1.残業を申請制にする

残業に関して何のルールもなく、社員が仕事があれば残業をしているような状態では、残業は増えてしまいます。
そこで多くの会社が取り入れているのが「残業申請制」です。
残業をする際には申請書を提出するように就業規則で規定し、所属長の許可が下りたときだけ残業を認めるという制度です。
申請書には以下のような内容を記入させ、所属長が申請書を確認してその残業が必要であると認めた時のみ残業をさせます。

  • 残業をする必要がある理由
  • 残業で行う業務の内容
  • 残業する時間

このように残業を申請制にすることで、無駄な残業が増えることを防ぐことができます。
この対策は、就業規則の規定などが必要なため、専門家に相談することをおすすめします。

2.残業時間内に休憩を設ける
残業している時間の中に休憩時間を組み込み、その時間内で食事や休憩をしてもらう方法です。
就業規則に規定することで、残業1時間ごとに10分などといった具合に休憩時間分の残業代を減らすことができます。
こちらの対策も、就業規則の規定などが必要なため、専門家に相談することをおすすめします。
3. ノー残業デーを設ける
「毎週水曜日」、「第二、第四木曜日」など、所定の日を残業禁止するノー残業デーにします。
ノー残業デーはその日の残業代が節約できるだけでなく、効率よく仕事を片付ければ残業をしなくても済むという意識を従業員に植え付けることにもなります。
ノー残業デーは就業規則に規定する必要はなく、手軽に導入することができます。

未払い残業代は現在最大で過去2年分遡って請求できるため、一刻も早く対策をすることが必要となります。
さらに2020年には民法改正により過去5年分遡って請求できるようになります。

そのため、対策をして5年経って初めて安心と言えます。
対策がしっかりとできていれば、たとえ未払い残業代の請求をされても現状であれば2年分まで遡及せずに3ヶ月程度の短い期間で済む場合もあります。

2年分遡及請求されるのは悪質と認められたケースであり、しっかりと対策ができていれば遡及される期間も短く済み、かなり支払う額を減らすことができる可能性高まります。
繰り返しになりますが、残業代未払い請求対策は、残業代を支払わずに残業させる対策ではありません。
基本的には残業した分に対しては支払いの義務がありますので、残業をさせないことがポイントです。

 

まとめ

日本人の労働時間、サービス残業の実態と未払い残業代トラブルと対策について、解説してきましたが、いかがでしょうか。
重要なのは表面的な統計ではなく、実態(中身)です。
サービス残業を従業員に強いることは労働基準法に違反しているということを経営者側も労働者側もしっかり認識して、ルールを明確化し、残業を最小限にして成果を最大化できるよう、より良い労働環境を社長と従業員一丸となってつくっていきましょう。

【原稿執筆者】
社会保険労務士法人ユニヴィス 社会保険労務士
池田