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2018.09.03

労務管理とは?主な業務と企業における課題

労務管理とは?主な業務と企業における課題

昨今、企業をとりまく経営環境や労働者の働き方、働く意識がますます多様化してきています。

政府が提唱する「一億総活躍社会」では、高齢者雇用促進、非正規雇用労働者の待遇改善、女性活躍促進、介護離職ゼロ、障害者の雇用の促進といった柔軟な働き方の実現に応じた雇用の措置を講じるよう求められています。

また、長時間労働やうつ病に代表されるような労働者の健康問題が取りざたされ、労働に関する問題や課題は増えるばかりです。こうした中、企業が労働者に対して働きやすい環境づくり、制度づくりをしていくことが望まれる時代になっており、「ヒト」に対する管理業務の重要性が高まっていると言えます。

今回は、企業における労務管理について、その主な業務や課題について、取り上げていきます。

 

労務管理とは?

企業における「ヒト」に対する管理としては、「人事」と「労務」に分けることができます。

一般的に、「人事」は採用、教育、評価などの仕事をおこない、「労務」は、採用した人の入社から退職に係わる給与計算、社会保険手続き、また、法律、会社規定に基づいた業務を行うと言われています。

会社の業種や規模等により、その業務内容や業務の幅、担当部署等は異なります。

いずれにしても、企業を支える「人材」をいかに有効活用するかをマネジメントしていく意義があり、従業員の労働環境を整え、労働者が安心して働くための組織づくりのために、スムーズに業務が進むようサポートする仕事でもあります。

労務管理を行っていく上で、関連する法制度に則って、諸制度の構築や労務トラブルへの対応を講じなければなりません。そのために、刻々と変化する労働法制や行政の運用をキャッチアップした取り組みが求められますが、自社にあった形で法制を見据えて、労務管理を進める必要があります。

 

労務管理に内包される主な業務

1.就業規則や各規程の作成・改定・管理

就業規則は、労働基準法第89条において、常時労働者が10人以上の事業所での作成及び届出義務が規定されています。 
就業規則は、社内のルールブックであると同時に、労働条件として約束している内容を規定しているものであるため、労働基準法で定められている条件は必ず満たさなければなりません。
就業規則の作成・届出義務を違反した場合には、30万円以下の罰金という罰則があります。 
会社での正式な規定がないために、万が一の際に適正な懲戒処分ができないなど、さまざまな問題に発展することが考えられるので、従業員が10名未満で届出義務がないという会社でも就業規則を含む社内制度を整備しておくことが会社のリスクを減らすことにもなります。

2.労働条件通知と労働契約の締結

使用者は、労働契約を締結する際、労働者に対し、賃金・労働時間その他の労働条件を明示しなければならないとされており、個別に労働条件通知書交付や労働契約書の締結により行われることが一般的です。
書面の交付により明示することが義務づけられている事項として、

 

  1. 労働契約の期間
  2. 就業の場所及び従事すべき業務
  3. 労働時間に関する事項
  4. 賃金に関する事項
  5. 退職(解雇)

に関する事項があります。
さらに、パートタイム労働者の場合には、昇給、賞与、退職金の有無については書面での明示も義務づけられています。
明示の必要がある事項の多くが就業規則の必要記載事項に含まれますので、必要記載事項を満たした就業規則を労働契約締結時に従業員に交付すれば、あとは就業規則に記載がない事項について別に書面で明示することでも可能です。

3.社会保険・労働保険の手続き

労務管理では、入社・退職・異動等に伴う、社会保険や雇用保険の手続も重要です。
従業員の入社・退社以外に結婚や出産に関して扶養者の追加、産休・育児休業の手続きや介護休業中や60歳過ぎてからの継続雇用者に対する高年齢雇用継続給付金支給申請、仕事中にケガをした場合の労災手続き等、従業員の状況によって、行うべき様々な手続きがあります。
届出の手続きに関しては、従業員が手続きの遅延によって不利益を被らないためにも、スムーズに手続きを完了させることが求められます。
手続き業務についてはマイナンバーが必要とされる届出が多くなってきており、その取扱いにおける管理については、セキュリティ対策が必要です。
また、2020年4月1日からは、大企業に対して手続きの電子申請を義務化する方針が厚生労働省から示されましたので、今後、中小企業にも義務化がおよぶ可能性があります。

4.勤怠管理

労働者が使用者の指揮命令下にあって、労務を提供している時間を管理するのが勤怠管理です。
使用者には労働者の労働時間を把握しなければならない責務があり、そのために講ずべき措置に関する基準が出ています。
労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン

 

 

労働者の労働日ごとに始業・終業時刻を確認し、記録することや、やむを得ず、自己申告制の出勤簿としている場合、自己申告時間と実際の労働時間が合致しているかどうかの実態調査を必要に応じて実施しなければなりません。
使用者が労働時間を把握するためにタイムカードやICT導入などによる時間管理をしない場合の方が労働時間把握責務に対するリスクは高くなると考えられます。
正しく労働時間を管理する仕組みづくりが必要です。

5.給与計算

給与計算とは、給料の総支給額と控除額、そして手取り額を計算し、従業員に報酬を支払う作業です。勤怠などの労働実績に応じて、就業規則に基づいた総支給額を計算し、そこから社会保険や税金などの控除額を計算します。 労働者は労働に従事した後に賃金請求権が発生するため、「ノーワークノーペイの原則」により、働かない分の支払いは行われないこととなります。 給与計算では、時間外労働をした場合は、一定以上の割合の割増賃金を支払わなければならないため、正しい勤怠管理による時間外労働時間の計算は必須事項となります。

 

労務管理の課題点、注意点は柔軟な対応とITへの最適化

働き方改革や過重労働対策として、時間外労働の上限規制、勤務間インターバル制度導入、労働者の一人1年あたり5日間の年次有給休暇の取得義務、健康管理の強化が取り上げられています。
それぞれの項目を達成するために、残業時間の軽減や睡眠時間の確保、医師による面接指導等の実施があげられています。

残業時間の上限は、原則として月45時間(1日当たり2時間程度の残業に相当)・年360時間とし、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることはできません。
法律や世の中の動向に合わせた変更を企業としても取り組まなくてはいけないため、業務改善や職場内のマニュアルやビジネスツールの見直し等を行うことが課題と言えます。

人事労務管理は、守りの色合いが強く、定型的業務に追われてしまうことが多いので、本当に行うべき制度づくりや環境づくりに時間を使えないという状況が見受けられます。
正確性が求められる一方で時間のかかる勤怠管理のような定型作業については、クラウドシステムを活用して効率良く行えるような体制にすることも取り組むべき事項と言えるでしょう。