時間と場所にとらわれない働きやすい働き方シリーズ1-ワーケーションについて
ワーケーションとは、仕事(WORK)と休暇(VACATION)を組み合わせた造語で、国内外のリゾート地、帰省先、地方など日常生活と別の場所で仕事をするものです。
帰省先や旅先で仕事をするという新しい働き方により、早朝や夕方以降の時間を社員が自由に過ごすことができ、また旅行の機会を増やし家族と過ごす時間が増えることで有給休暇の取得率向上が期待されます。
しかし、ワーケーションには、これまで明確に区別すべきとされていた仕事と休暇の組み合わせであるため、注意すべき点があります。
そのため、以下では労働法関係の規制・コンプライアンス上の注意点、社内体制の整備等のポイントを解説します。
ワーケーション導入時に注意すべき法規制
まず、大前提として社員がワーケーションを行う場合、テレワークや通常勤務と同様に、労働基準法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法等の労働法例が当然に適用されます。
帰省先や旅先など就業場所を離れていても、単なる休暇ではなく仕事である以上、社員自身の自己責任とはなりません。
そのため、ワーケーション導入時に注意すべき法規制として、以下の3点に分かれます。
(1)仕事と有給休暇の明確な区別
ワーケーションは、帰省先や旅先など自宅と異なった場所で行うことになるため、一般的なテレワークと比較しても仕事と休暇の区別がしにくくなります。
しかし、本来、有給休暇は「賃金の減収を伴うことなく、労働義務の免除を受けるもの」です。
ワーケーションの導入により、有給休暇中でも社員に仕事をさせることができると勘違いしてはいけません。
また有給休暇は、本来1日、半日単位での取得が原則です。
労使協定を締結した場合には、時間単位での有給休暇の付与が可能になりましたが、これは年5日の範囲内に限定されています。
休暇の一部で仕事を定義する場合、仕事と休暇のそれぞれの日数の明確な区別、時間単位の有給休暇の適切な運用が必要になります。
(2)適正な労働時間管理
テレワークと同様に、ワーケーションでも、会社を離れた場所での勤務であり労働時間管理が困難であるとの考え方から、労働基準法38条の2に規定される「事業場外労働のみなし労働時間制(以下、「みなし労働時間制」)の適用を検討する会社が多いと思われます。
しかし、みなし労働時間制の対象となるのは、①事業場外で業務に従事し、かつ②会社の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間制を算定することが困難な業務、という要件があることに注意が必要です。
逆に言えば、ワーケーションのように事業場外で業務に従事する場合でも、会社の具体的な指揮監督が及んでいる場合については労働時間の算定が可能であるため、みなし労働時間制の適用はできません。
みなし労働時間制を適用しない、通常勤務と同様の労働時間管理を行うとした場合、2017年1月に厚生労働省は「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置」を以下のように定めており、自己申告制は「やむを得ず」とされている点に注意が必要です。
>>労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン
(3)その他の留意すべき規制
ワーケーションの場合、仕事の場所が事業場外というだけでなく、帰省先や旅先といった日常生活からも離れた場所になるため、安全衛生面での注意も必要になります。
業務上の災害とはなりませんので、ワーケーション中の行動については、業務行動、業務外行動の区別を明確にしておくことが会社や社員双方にとっても重要になります。
社内体制の整備等のポイント
ワーケーションを導入する際の社内体制の整備をどのようにするか、基本は「小さく産んで大きく育てる」あくまで実験的な位置づけとして、小さく始めることが重要です。
具体的には、
- 対象者の範囲
- 実施時期
- 仕事の進捗・確認方法
3つのポイントが必要です。
対象者を限定し、実施期間を短くすることでPDCAを素早く回し、対象者からのフィードバックを得ながら成功例を積み重ねる、人事制度を会社・社員が共同して一緒に育てていく姿勢を忘れないようにすることが大切です。
(1)対象者の範囲
役職、所属部署、業務内容などワーケーションの対象者の範囲の定め方は様々ですが、業務内容で限定するのが始めやすいと思います。
ただ、ワーケーションでは、情報通信機器によるコミュニケーションが主になります。
上司や同僚、またはお客様と頻繁に顔を合わせてコミュニケーションを日常的に求められる業務を行っている社員は実験段階では除外しておく方が無難です。
(2)実施時期
例えば夏季休暇シーズンの7~9月の3ヶ月間のうち最大5日間など、短期間、そして夏季休暇、年末年始などの例年休暇が多くなる時期に限定するとスムーズに運用できると思います。
(3)仕事の進捗・確認方法
ワーケーションの導入で最も悩ましいのが仕事の進捗と確認方法です。
始業と終業時刻に電話・メールさせる、日報を提出させるなど様々あり得ますが、通常行っている確認方法からかけ離れた方法を強いると、社員の利用意欲が削がれますので、いかに抵抗感を抱かせない工夫した方法で仕事の進捗を確認したほうが良いかと思います。
まとめ
最近は「働き方改革」という政策の影響もあって、従来の働き方から一歩進んだ多様な取組みが脚光を浴びています。
労務管理という言葉が示す通り、従来会社が一律的にすべてを管理していた労務について、社員にも自主的な管理・自律的な働き方を求める流れになっています。
個々の多様な働き方を認める新しい人事制度や施策が今まさに求められており、日本の働き方の在り方が問われていると思います。
【原稿執筆者】
社会保険労務士法人ユニヴィス 社会保険労務士
池田 久輝