CLOUZA COLUMN

勤怠管理コラム

働き方改革の中で示された兼業解禁構想。働き過ぎが課題となる中で、さらなる働き過ぎを招く恐れもある兼業の解禁には違和感がありますね。

今回は個人の働き方が大きく変わる可能性のある兼業解禁構想にスポットを当てて、その課題や勤怠管理上のポイントについて解説してみたいと思います。

 

副業・兼業解禁の背景

多くの会社が、社員の副業・兼業を就業規則で禁止しています。
これが働き方改革の一環で、解禁される見込みです。

副業・兼業が解禁される背景には、2つの理由があるとされています。

1つ目は、就労世帯の収入増です。
非正規労働者を中心に、副業・兼業が広がっている現実を踏まえて、就労世帯の収入を増やすために、個々人の事情に応じて、多様な働き口を用意しようということです。
同一労働同一賃金などの格差是正策を実施し、就労の質を維持しながら、収入増を図る取り組みが、まさに進められようとしています。

2つ目は、働き手自体の「働く」に対するニーズが多様化していることです。
収入を増やしたいというのもニーズの一つですが、今いる会社だけでは自分がやりたいことが実現できない、多様な職場で働くことで自身のスキルをアップさせる機会を増やしたい、自分自身のこれまでの経験を中小企業などの他社で活かしたい、社会的な課題解決のためにボランティア的にNPO等で働きたいと考える人もいます。
「2枚目の名刺」「パラレルキャリア」という言葉も最近は一般的になってきましたが、本業を持ちながら、別のフィールドでも仕事を持つというスタイルの人が増えているようです。

一方で、企業側としても人材育成の手段として副業・兼業を推進する動きがあります。自社の社員に多様な価値観に触れる機会を増やし、人間的な成長を促す。そこで得た知識やスキルを自社に持ち込むことで、組織力を高めるといった狙いがあります。

 

副業・兼業解禁に伴う会社のリスクと対応

社員が副業・兼業をすることで、会社は一定のリスクを抱えることになります。
たとえば、以下のようなリスクが考えられます。

想定リスク1:自社情報の流出
会社で開発している技術や顧客情報を自身の副業に利用したり、兼業先の会社に流出させたりするリスクです。
もちろん営業機密であれば事後的に法的な保護を受けることができますが、いったん流出した情報は取り返しがつきません。
想定リスク2:兼業先がライバル企業
兼業先が自社のライバル会社である場合もあります。
社員が持っている知識やノウハウは、同じ業界の会社で活かすことが容易なので、経営者が気づいたときは、いつの間にかライバル会社と兼業していたということにもなりかねません。
想定リスク3:自社のイメージが悪化するような副業・兼業
たとえば自社の幹部社員が、夜間、風俗店で働いていたらどうでしょうか。
職業に貴賎はありませんが、自社で一定以上の職位にある社員の副業・兼業については、ある程度の範囲で制限することも必要になってくるのではないでしょうか?
想定リスク4:副業・兼業による自社での就労への影響
副業・兼業に力を入れすぎて疲労困憊し、自社での就労に差し障ることもあるでしょう。こうなると長時間労働是正の観点からも、看過できない事態といえますね。

上記のようなリスクに対しては、就業規則等で規制をかけることが必要です
副業・兼業が解禁されるといっても、無制限に副業・兼業が可能になるという意味ではありません。会社として合理的な範囲で制限をかけることは可能です。

ただし、雇用契約で決められた勤務時間以外の時間を社員がどのように利用するかは、社員の自由であり、憲法(22条1項)でも「職業選択の自由」が認められていることからも、合理的な範囲を超えた制限をかけることはできないことには留意する必要があります。

 

副業・兼業解禁と勤怠管理

副業・兼業が解禁されると勤怠管理も少し複雑になります。

たとえば自社の終業時刻後に他社での就労を予定している社員に対して、どこまで残業を命じることができるかという問題があります。

これまでは副業・兼業を全面的に禁止している企業が多かったため、就業規則の「業務の都合により残業を命じることがある」といった規定を根拠に残業をさせることができましたが、今後は会社と社員との話し合いで決めることになると思います。

また副業・兼業による労働時間の長時間化に対しても、社員と話し合って、一定の歯止めを設けておく必要があるでしょう。
今回の副業・兼業の解禁に伴う政府の指針は、「労働者の健康確保に留意しつつ、原則副業・兼業を認める」というものですので、会社側が社員の他社での労働時間に関する情報を把握することが、特段違法な行為になるとは思えません。

実務的には副業・兼業を予定している社員に「副業・兼業に関する届出」を提出させて、適宜、実際の労働時間について会社がヒアリングを行うといった流れになると思います。

なお、法定労働時間(1週40時間、1日8時間、労基法36条、37条)を超えて労働した場合に支払う割増賃金について、本業の会社が負担するのか、兼業先の会社が負担するのかについてはまだ明確になっていません。
現行法(労基法38条)では、労働時間は事業場が異なった場合でも通算されることになっているので、自社と兼業先の会社の労働時間を通算して法定労働時間を超えた場合は、いずれかの会社が負担しなければなりません。

上記の労働時間通算規定については、これから法的な解釈が行政から出されるものと思われます。行政解釈が出された段階で、社員と話し合い、また必要に応じて兼業先の企業担当者と情報共有しながら、適切な勤怠管理を進めていただければと思います。