CLOUZA COLUMN

勤怠管理コラム

2017年11月に寺院に勤める40代の男性僧侶がうつ病を発症したのは、「連続勤務」が原因によるものであるとして労災認定がされ、このことを受けて2018年4月に男性僧侶は寺院を運営する宗教法人に対し、慰謝料や未払い賃金など計約860万円を求めて和歌山地裁に提訴するということがおこりました。

一般企業においても、業務上の必要性がある場合には、従業員に対して「連続勤務」の命令を行うことがあるかと思います。
今回は、僧侶の労災事例をみながら、「連続勤務」に関する法律や対策について解説します。

 

今回の僧侶の労災認定事案とは?

該当の男性僧侶は2008年より寺院で働き始めました。
主な仕事は、寺の宿坊(仏教寺院などで僧侶や参拝者のために作られた宿泊施設)の宿泊者らが参加する読経の準備や宿泊者の世話、寺院の通常業務に従事するのが仕事でした。
朝は午前5時前から仕事の準備が始まり、仕事が終わるのは、繁忙期になると午後9~11時ごろになることもあったと言います。

2015年はこの寺院での記念行事の年でもあったため宿泊者は44万人を超え、該当の男性僧侶は3月25日~5月27日の64日間と9月17日~10月18日の32日間の連続勤務を行った結果、2015年12月ごろにうつ病を発症し、2016年3月から休職をせざるを得ない状況になったとのことです。

男性僧侶は、労働基準監督署に対し労災申請を行い、2016年の4、5、10月に休みが1日もなく勤務が続いたことなどから、「少なくとも1ヶ月間の連続勤務が認められる」として労災認定し、2017年11月に休業給付支給が決定されました。

 

僧侶の労働者性とは?

僧侶が寺院で行う職務は労働ではなく「修行」と思われがちですが、労働基準法第9条によれば、労働者性は「職業の種類を問わず、事業に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」とされています。
今回の事例では、労災認定を受けた僧侶は寺院の指揮命令によって、宿泊者の世話や通常業務を行っており、寺院に所属し「雇用契約」に基づいて勤務し、相応の給与を受けていたという事情から、労働者として認定されたと考えられます。

ただし、僧侶の場合、「宗教団体についての労働基準法の適用(労働基準法第9条関係)」(昭和27.2.5基発第49号)の通達では、

「法の適用に当たっては、憲法及び宗教法人に定める宗教尊重の精神に基づき、宗教関係事業の特殊性を十分考慮すること」

とされています。

 

連続勤務の上限は、労働基準法で決められている?

「連続勤務」の定義は労働基準法で規定されてはいませんが、休日と休日に挟まれた労働日が「連続勤務」として考えることができます。
従業員への休日を与える規定は、労働基準法の第35条第1項と第2項にあり、これが連続勤務の考え方を導くものと言えます。

第1項:「使用者は、労働者に対して、毎週少くとも1回の休日を与えなければならない。」
1週に1日は休日を与えると言っているので、通常考えると連続勤務は6日間となります。 ただし、「6日間の連続勤務を超えてはならない」と規定されていないため、「週に1日休めばよい」と読めるので、1週の始まりの日曜日に休んだ従業員が、翌日の月曜から第2週の金曜まで12日連続で働き土曜に休むことも可能とされます。 つまり、第1週目の休みは日曜日、第2週目の休みは、土曜なので、週に1日の休日は確保されていることとなり、この場合の12日連続勤務は労働基準法違反とはなりません。 この会社の週の始まりは日曜としているので、もし、2週目に休んだのが土曜ではなく翌日の日曜にであった場合はこの日曜は3週目になりますので、2週目の休日を与えていないことになるため違法となります。
第2項:「4週間を通じ4日以上の休日を与える使用者については適用しない」
従業員に4週間以内に4日以上休日を与えれば良いと定めています。
この場合は、1週目から3週目まで毎日出勤(連続勤務)し、4週目に入って更に3日出勤した後に、休日を4日間与えれば、少なくとも4週間に4日間の休日があるため違法とはならず、最大24日の連続勤務が可能と言えます。
変則的な休日の与え方となるため、就業規則にはその規定をきちんと設け、起算日がいつでその日から4週間以内とはいつまでなのかを明確にできるようにしておく必要があります。
第1項の通りに「1週間に休日を1回与える」ということが労働者の心身の負担を考えれば望ましいのですが、業種や職種によっては、それが困難な場合に第2項の決まりに則って与えることが可能であると言えます。

法定労働時間である1日8時間、週 40 時間を超える労働や、法定休日である週1回(変形休日制の場合は4週4日)の労働は本来であれば労働基準法に違反するものですが、36協定の締結・届出によって協定された範囲内で、法定労働時間を超える労働や法定休日の労働が可能となります。
そして、法定労働時間を超える労働や法定休日の労働に対して、割増賃金を支払えば、違法とはならないことになります。

 

連続勤務における注意点とは?

36協定の締結内容の範囲に収まっていて、所定の割増賃金も支払っているから、労働基準法違反にならないからといって、従業員の勤務状態、健康状態を考えずに連続勤務させた場合に起こる責任が免除されるわけではありません。
労働契約法第5条では、

「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」

と、使用者の安全配慮義務について規定しており、この「生命、身体等の安全」には心身の健康も含まれるとされています。
連続出勤が長期になれば労働から完全に開放された日がないため、疲労が蓄積してしまうことが考えられます。
労働基準法第35条の第2項で可能とされる最大24日勤務を過酷な状況で繰り返しさせた結果、労働者が疾病や過労死などの被害にあえば、使用者は適正な雇用環境を与えていたのか責任を問われます。

 

連続勤務により過重労働対策とは?

過重労働ともなるような連続した出勤とならないための対策として、以下のようなものが考えられます。

  1. 超過勤務記録や勤怠管理システム等を活用して、時間外労働及び連続勤務の実態を把握
  2. 業務が一人に集中しないようにローテーションを組みなおす、組織上での対応
  3. 繁忙期に限り有期雇用のパートタイマーや派遣労働者を雇用して人材面での対応
  4. 休日に出勤してもらわなければならないことが事前に分かっているのであれば休日の振替を行う
  5. 事前に振り替えることができなかったのであれば休日出勤のあと一定期間の間に代休を与える

過重労働により精神疾患、脳・心臓疾患を発症したとして、業務災害の保険給付を請求すると共に、使用者の健康配慮義務、注意義務の違反を請求原因とする損害賠償請求が多数見受けられます。
また、長期にわたる連続勤務がある会社は、退職者が頻繁に発生し人が定着しないことや人の採用が難しくなることが予想されます。
働き方改革が叫ばれる中、すべての社員がその能力を十分に発揮して、働き続けることができるような環境づくり必要な措置を取ることが重要だと言えます。