Column

コラム

高度プロフェッショナル制度とは?働き方改革が目指す未来と課題

高度プロフェッショナル制度とは?働き方改革が目指す未来と課題

働き方改革の目玉とされていた高度プロフェッショナル制度が、2019年4月の法改正で施行されました。
この制度は労働を時間数ではなく成果で評価することが最大の特徴です。
対象となる労働者は労働時間の縛りを受けずに働くことが可能になります。
一方で長時間労働への懸念も取りざたされています。高度プロフェッショナル制度の現状と課題について解説いたします。

 

高度プロフェッショナル制度とは?

金融商品の開発など高度な専門知識を持ち、一定以上の年収を得ているなどの条件を満たす労働者に対して労働時間や休憩、休日および深夜の割増賃金に関する規定を適用しないという制度です。

労働基準法では第32条で労働時間は1日8時間、週40時間と定められています。
これを法定労働時間と言います。
また第37条では、法定労働時間を超えて働かせた場合や休日および深夜時間帯に働かせた時には一定の割増率を乗じた賃金を支払うことを規定しています。

この制度の対象となった労働者はどれだけの時間働いても残業代が支払われないことから、法改正の議論の時には「残業代ゼロ法案」「定額働かせ放題法」と呼ばれ反対する意見も根強くありました。

 

高度プロフェッショナル制度の対象となる業務

どんな労働者でも対象になるわけではありません。
労働の成果を時間数ではなく成果で評価することが適当とされる一部の職種が対象となります。

具体的には現在のところ、以下の職務に従事する労働者だけが対象です。

  • 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
  • 自らの判断に基づく資産運用の業務または有価証券の売買その他の取引の業務
  • 有価証券市場における相場等の動向または有価証券の価値等の分析、評価またはこれに基づく投資に関する助言の業務
  • 顧客の事業の運営に関する重要な事項についての調査または分析及びこれに基づく当該事項に関する考案または助言の業務
  • 新たな商品、技術または役務の研究開発の業務

たとえば、金融の商品開発やアナリスト、各種コンサルタントなどが該当します。
さらにこれらの業務に就いている者のうち以下の条件を満たす必要があります。

  • 使用者との書面による合意に基づき職務範囲が明確に定められていること
  • 年収が1,075万円以上であること

対象になると、労働時間の規制の適用を受けず残業代も支払われなくなるため、労働者保護の観点から制度の厳格な運用が求められます。

 

高度プロフェッショナル制度の導入手順を知ろう

導入するには、まず使用者と労働者で構成する労使委員会を設置しなければなりません。
労使委員会で対象業務や対象労働者の範囲、使用者による適切な時間管理や健康・福祉確保措置など一定の事項について5分の4以上の多数による決議が必要です。
こうしてまとめられた決議を所定の様式により所轄労働基準監督署に届出をすることで導入できます。

また、対象となる労働者とは個別に書面による同意を取る必要があります。
この同意については、労働者はいつでも撤回することができます。

このように高度プロフェッショナル制度を取り入れるには、労使間の細やかな協議や個別の労働者とのコミュニケーションが欠かせません。
特に対象労働者に対しては定期的に面談するなど、人事担当者や上司による導入後のケアが必要です。

誤解されがちなことですが、高度プロフェッショナル制度の対象労働者であれば時間管理をしなくてよいというわけではありません。
通常の労働者と同様に労働時間の記録を取り、適切に休息が取れているかをチェックすることが求められます。

もしも過労により、対象労働者が倒れてしまう事態が起きたとしたら、企業として健康管理についての責任が民事的に問われる可能性もあります。

 

高度プロフェッショナル制度の問題点

大きな注目とともにスタートした制度ですが、課題も多く指摘されています。

まず対象となる労働者が限られるため、そもそも制度導入に踏み切った企業が非常に少ないという現実があります。
厚生労働省によると、2019年4月の法改正後の1ヶ月間で高度プロフェッショナル制度が適用された労働者は全国で1人でした。
働き方改革の目玉であるはずの高度プロフェッショナル制度も蓋を開けてみると、ほとんど適用されていないという現実が浮かび上がりました。

もともと年収が1,075万円以上となる人は労働者のうちわずか4〜5%に過ぎません。
対象業務が限られていることを考えると、今後も一気に増えていく可能性は高くないでしょう。

既存の制度である裁量労働制やフレックス制度などのほうが運用しやすいと考え、とりあえず様子見の企業もあるでしょう。

>>国税庁 民間給与実態統計調査

>>総務省統計局 労働力調査

 

高度プロフェッショナル制度の条件は将来緩和される?

これまでみてきたとおり、高度プロフェッショナル制度は導入にあたって高いハードルがあります。

企業サイドからすると、労働時間の規制に縛られない働かせ方というのは競争力を高めるための施策として魅力的に映ります。

そこで将来、適用条件の緩和が求められる可能性があります。
高度プロフェッショナル制度はアメリカのホワイトカラー・エグゼンプションを参考にしています。
本家ホワイトカラー・エグゼンプションは、ホワイトカラー職務内容が「管理職」「運営職」「専門職」の場合に残業代支払いの対象から除かれており、高度プロフェッショナル制度に比べて対象範囲が広くなっています。
そして年収要件は、最低でも2万3,660ドルとされていますが2019年3月には3万5,000ドルに引き上げるよう提示されています。

3万5,000ドルは状況にもよりますが日本円でおよそ400万円前後です。
もちろん日本とアメリカでは経済規模や物価など異なるため、単純比較はできませんが日本での1,075万円という年収要件に比べるとずいぶんハードルが低く感じられます。

現状のままで、制度導入をする企業が増えない状況が続けば規制緩和を求める声が強まるのは確実です。
対象業務の拡大や年収要件の引き下げがそう遠くない将来に検討され始めるのではないでしょうか。

まだ制度は始まったばかりであり、「残業代ゼロ法案」のイメージが強いため早急な規制緩和は世間の反発が強いと思われますが、いずれ高度プロフェッショナル制度の改正の話題が出てくるでしょう。
経営者や人事担当者としては、こうした話題や動きについて常にアンテナを張っておく必要があります。

 

適切な労働時間の管理は労務管理の基本

働き方改革は高度プロフェッショナル制度や残業時間の上限規制、勤務間インターバル制度など労働時間に関することが中心です。

いずれにしても重要なのは、いかに効率よく仕事の質を高めていくかという、労働時間の管理に対する意識改革です。 
働き方改革の推進の一環として自社の労働時間管理が適切に行われているか、再確認をしてみてはいかがでしょうか。

>>厚生労働省 「高度プロフェッショナル制度わかりやすい解説」

【原稿執筆者】
ちとせ労務管理事務所 社会保険労務士 
淵上