【給与計算方法:前編】給与計算の基礎知識と全体の流れ
会社を始めて、従業員を雇った場合、必ず行わなければならないのが給与計算です。
経営者や給与計算担当者の中には給与計算ソフトを使っていて、なんとなく実務を行っている方も多く、きちんと体系的に理解されている方は少ないかもしれません。
そこで、今回は給与計算方法の前編として、給与計算の基礎知識、業務リスク、給与計算業務の全体の流れについてお伝えします。
給与計算方法の基本構造
給与計算方法の基本構造を簡単に表すと以下のとおりです。
差引支給額(手取り額)=総支給額(固定的給与+非固定的給与)-控除額(保険料+税金)
給与は、各社の就業規則、給与規程に基づいて計算するのが大前提ですが、基本給・役職手当・通勤手当・住宅手当など毎月決まった額が支給される固定的給与と、残業手当・休日出勤手当・出来高給(歩合給)・インセンティブなどのように額が月ごとに変動する非固定的給与との2種類に分けられます。
給与は労働契約に基づいて支払われる労働の対価ですが、そのまま全額は支給されません。
健康保険料や厚生年金保険料・雇用保険料などの社会保険料、所得税・住民税といった税金については、企業が給与から控除(天引き)して納付することが法律で定められています。
これを「法定控除」といいます。
また、法定控除以外の項目でも、企業と従業員の代表が話し合って「労使協定」が結ばれていれば給与から控除(天引き)できます。
法定控除以外の主な控除項目としては、社宅や寮の使用料・組合費・財形貯蓄・生命保険料・社員旅行の積立などが考えられます。
これらは企業ごとに異なりますので、就業規則、給与規程を確認した上で必ず給与計算しましょう。
(就業規則、給与規程が無い場合はまず作成が必要です。)
給与計算の大前提!賃金支払5原則とは
給与の支払いには、賃金支払5原則という、労働基準法第24条で定められた賃金の支払い方法に関するルールがあります。
賃金支払の大前提となるルールであり、賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならないとされています。
この内容に違反すれば、労働基準法第120条に基づき、30万円以下の罰金が科される場合があります。
【賃金支払5原則】
1.通貨払いの原則
賃金は現金で支払わなければならず、小切手や現物での支払いは認められていません。
ただし、本人の同意を得た場合は本人名義の預金口座に振り込んでも良いこととされています。
2.直接払いの原則
賃金は親や代理人などではなく、直接本人に支払わなければなりません。
未成年者だからといって、代わりに親などに支払うことはできません。
3.全額払いの原則
会社側の都合で積立金などの名目で控除したり、一部を来月に繰り越したりしてはいけません。
ただし、所得税や社会保険料など、法令で定められているものの控除は認められます。
それ以外は、労働者の過半数で組織する労働組合、または労働者の過半数を代表する者との間で締結した労使協定で定めたものに限って認められます。
4.毎月1回以上払いの原則
賃金は毎月1回以上支払わなければなりません。
年俸制の場合も分割して毎月支払うことが必要です。
ただし、臨時の賃金や賞与(ボーナス)は例外として適用されません。
5.一定期日払いの原則
賃金は期日を特定して支払わなければなりません。
支払日を「毎月20日~25日の間」や「毎月第4金曜日」など変動する期日とすることは認められていません。
給与計算をする上での3つのリスク
給与計算は、従業員の給与に係わる重要な業務なので、正確に行われない場合いくつかのリスクがあります。
経営者や給与計算担当者は、必ず以下の3つのリスクを理解した上で対応しましょう。
1.情報漏洩のリスク
給与計算の際に必要となる従業員や扶養家族の個人情報は、適正な管理を行い、社内外ともに情報漏洩を防止する必要があります。
情報漏洩をした場合、個人情報保護法違反から刑事罰や従業員からの訴訟リスクが発生する可能性があります。
2.労務リスク
代表的な例として、仮に残業手当の計算の場合、勤怠に記録漏れがあったり、就業規則や給与規程に則っていない残業手当の計算をしたり、単純なケアレスミスがあると、残業代の未払いにつながります。
残業代の未払いになれば、従業員から残業代未払い請求された場合、会社は多額のコストを支払う可能性があります。
3.税務リスク
所得税に計算ミスがあった場合や払い漏れがあった場合は、会社の責任になりますので、税務リスクが発生してしまいます。
給与計算業務の全体の流れ
給与の支払いは、前述のとおり労働基準法で毎月一回以上支払うことが義務づけられていますので、給与計算は月次の業務が基本です。
実際の月次の給与計算の業務は次のような流れで行われます。
1.勤怠データの集計・確認
出勤日数・労働時間・残業時間など、給与支給額計算のベースとなる情報を集計します。
遅刻・欠勤・早退などによる不就労分も忘れずに集計します。
以前はタイムカードや出勤簿が一般的でしたが、近年では勤怠管理システムなどITツールを活用するケースが急速に増えています。集計の事務作業が軽減されますので、勤怠管理システムを導入することを検討してみても良いでしょう。
2.人事データ、業務成績データの参照
基本給や各種手当、など固定的給与に変動がないか、人事データをチェックします。
昇格・降格、家族の増減、転居、異動などがあった場合は支給額が変わってきます。また、会社によっては出来高給やインセンティブなどの非固定的給与の支給額を計算する必要もあるので、業務成績のデータなどを参照する必要があります。
残業時間の集計などは、給与計算日までには済ませておきましょう。
3.総支給額の確定
4.控除額の計算
最新の法令に基づき社会保険料や税金の控除額を計算します。
また、不就労分の控除額などを合わせて、控除総額を集計します。
5.差引支給額の計算
総支給額から控除額を引き、差引支給額を計算します。
6.給与明細書の準備
給与支払日までには給与明細書を準備しましょう。
7.銀行振込みの場合は振込み手続き
銀行が定める期日に間に合うように手続きを行います。
8.給与明細書の社員への提示
9.控除した社会保険料、税金などを各官庁に納入
まとめ
今回は給与計算の基本的な内容や全体像を解説しましたがいかがでしたか。
給与計算の実務自体はすでにできていても、給与計算の基本的な法律やルールを知らなければ会社としてリスクが発生します。
これを機会に基本に立ち返り、日々の給与計算業務に問題がないか確認していただき、給与計算業務の流れを整理してみてください。
次回は、具体的な給与計算方法について解説します。
【原稿執筆者】
社会保険労務士法人ユニヴィス 社会保険労務士
池田