固定残業代制度の正しい運用方法とは?
固定残業代制度(みなし残業代制度)を使っていらっしゃる会社の中には、「固定残業手当を払えば、どれだけ残業させても良い」というように誤解をされている場合が少なくないようです。
またそういった誤解以外にも、この制度を正しく運用するには、いくつかの注意点があります。この制度について誤った運用があると、訴訟に発展するリスクも発生しかねません。
そこで今回は、固定残業代制度について、メリットや注意点を交えながら、詳しく解説したいと思います。
固定残業代制度(みなし残業代制度)とは?
固定残業代制度(みなし残業代制度)とは、残業代があらかじめ固定給に含まれている労働契約のことを言います。
例えば「基本給20万円に、固定残業代3万円が含まれている」というような契約があります。
この場合、前述のように、「3万円さえ払っていれば、どれだけ残業させても、それ以上残業代を払う必要がない。」という考えは誤りです。では、どう考えれば良いのでしょうか。
ここで、この従業員の残業代が1時間当たり2,000円だとすると、3万円というのは、残業15時間分に当たりますね。
したがってこの場合であれば、15時間までの残業に対しては、別途残業代を支払う必要がないということになります。
逆に言えば、15時間を超えて残業をした場合は、その分の残業代を追加で支払わなければなりません。
また「固定残業代制度を用いているから、労働時間を管理していない。」という話も耳にすることがありますが、それだと追加の残業代を払う必要があるかどうかが分からないため、問題があります。
よって、固定残業代制度を用いる場合でも、毎月の労働時間管理、勤怠管理は欠かさず行わなければなりません。
固定残業代制度を用いる場合の注意点
固定残業代制度を運用する場合には、上記の点以外にも注意すべきことがあります。
主な注意点は以下のようなことです。
- 固定残業代制度を採用することが就業規則等で周知されていること
- 通常の労働時間に対する賃金部分と固定残業部分が明確に区別されていること
- 固定残業代が何時間分の残業時間に対応しているのか明記されていること
- 固定残業代が時間外割増賃金の支払いにのみに充てられるのか、それとも深夜割増賃金や休日割増賃金にも充てられるのかを明確に規定すること
ここまでの注意点を基に、規定例を作ると以下のようなものになります。
(規定例)
基本給には、第〇条に定める時間外労働手当の15時間相当額(割増賃金計算の基礎となる時給単価×1.25×15)が含まれるものとする。
なお、今まで固定残業代制度を用いていなかった企業が、今後これを導入することになったため、就業規則に同制度を明記する、という場合があるかと思います。
この時、固定残業代制度の導入が、既存の従業員にとって、労働条件の不利益変更にあたる可能性があります。不利益変更は、その変更に合理性があれば従業員の同意が必要とはされないのですが、会社側から見て合理性があると思っても、実際に合理性が認められるとは限りません。
そこで不利益変更に当たる場合は、後々の争いを予防するため、全従業員の同意を得ておくことが強く推奨されます。その際には、制度の概要や従業員に対する影響などを分かりやすく説明する必要があります。
またこれは義務ではありませんが、近年の長時間労働を抑止する流れからすると、固定残業代に対応する残業時間の設定は45時間以内にするのが望ましいと考えられます。
以上のような注意点が守られていないと、未払い賃金請求など訴訟に発展するケースもありますので、十分に気を付ける必要があります。
固定残業代制度のメリット
このように、固定残業代制度は正しく運用しようと思うと、なかなか骨が折れる制度となっています。では、この制度のメリットは何でしょうか。
例えば、残業をしなくても一定額の残業代が支払われるため、従業員が残業を減らすことに抵抗を持たなくなる結果、できるだけ効率的に仕事をしようという意識を持つのではないかと言われています。
最近は働き方改革によって、残業削減の必要性が叫ばれていますが、従業員によっては残業代が減ってしまうことを嫌がるという場合があります。このような場合には、固定残業代のメリットがあるかもしれません。
ただし、会社からすると、従業員の残業が減っても固定の残業代を支払い続けなくてはいけないため、大きなメリットと言えるかどうかは微妙なところです。
「残業代を払わなくても良い。」とか「勤怠管理をしなくても良い。」という考えが誤解であることは前述のとおりです。そうすると実のところ、固定残業代には、会社にとって大きなメリットはあまりないのではないか、という意見もあります。
もちろんその他にメリットが存在することもあるでしょうが、今後導入を検討されている場合は、上記のような運用の注意点をしっかり守ったとしても、企業にとってメリットのある制度なのかどうか、よく検討されることをおすすめします。