CLOUZA COLUMN

勤怠管理コラム

昨今日本では「働き方改革」が国家規模での大きな課題になっており、現状の働き方を見直そうという気運が高まってきています。しかし、実際にどのような取り組みをしたら効果的な改善に繋がるか試行錯誤をしている企業も多いのではないでしょうか。

今回は多様な働き方について先陣を切る欧州各国の取り組みや考え方をドイツの事例を中心にいくつか紹介し、日本での実現について考えられることをお伝えしていきます。

 

残業時間を貯蓄しワーク・ライフ・バランスに活用

ドイツでは、ワーク・ライフ・バランスに関する施策が充実しており、従業員はそれぞれの制度を利用しながら効率よく働き、好調なドイツ経済を支えています。
数多くの施策の中でもドイツ独自の取り組みとして、労働者が残業した時間を労働時間口座に貯めておき、休暇等の目的で好きな時にこれを使える「労働時間口座制」というしくみがあります。
従業員は残業した時間を積み立てて家庭や職場外の活動に自由に使うことができることから、ワーク・ライフ・バランス施策として活用することが期待されています。
調整期間が最大1年の「短期口座」と長期的な労働時間調整を可能にする「長期口座」とありますが、「短期口座」が主流です。
「労働時間口座制」のメリットは、柔軟な労働時間編成が可能であること、従業員は労働時間口座に時間を積み立てて家庭や職場外の活動に自由に使うことができるなどがあげられます。

日本では「働き方改革」の一つとして36協定(労働者に法定時間外労働、または法定休日労働をさせる場合にあらかじめ労使で交わした書面による協定)で締結できる時間外・休日労働の上限について議論され、改正の準備が進められていますが、時間外労働を前提とした働き方自体に規制が入ることはまだ先のようです。
残業をすることが当たり前の風潮のまま「労働時間口座制」に類似した制度を導入することは難しいとは思います。

しかし、今後日本でこのような取り組みが普及したら、労働者が働くときは働き、休む時には休むなどより主体的に労働時間を組み立てることにより自らメリハリのある充実したワーク・ライフ・バランスを過ごせる可能性があります。
労務管理も貯蓄した労働時間を会社の実情に沿って活用する運用を定め、制度化すれば難しくないはずです。

 

ドイツ流ワークシェアリング

その他、ドイツでは、複数の労働者が一つのポストの労働時間を分割するジョブ・シェアリングという制度があります。
ジョブ・シェアリングの仕方は、1日の勤務時間を午前と午後に分割する方法、1日おきに交代で勤務する方法、週あるいは月単位で交代する方法など様々です。
この労働形態は、各労働者が予め定められた勤務時間表に応じて交代で勤務するけれども、個々の勤務においては各々が互いに独立して勤務を行う形で労働ポストが分割される「ジョブ・スプリッティング(job splitting)」と、各労働者が予め定められた勤務時間表に応じて交代で勤務するけれども、業務の遂行については共同で責任を負う形で労働ポストが分割される「ジョブ・ペアリング(job pairing)」の二つに区別されます。

ジョブ・シェアリングはもともと失業対策として登場したものですが、労働時間が減ることでワーク・ライフ・バランス施策の一つとしての活用が期待されています。

日本ではワークシェアリングといえばシフトで働くパートタイマーが思いつくのではないでしょうか。パートタイマーといえば、正社員より低賃金で代替しやすい仕事を共有するという働き方が一般的です。
今後、企業が正社員もしくは正社員と同等の地位と責任の社員が相応の給与でワークシェアリングができる制度を導入すれば、介護や育児や持病などで時間制約のある有能な人材の確保が期待できます。

 

ドイツ・フランスの有給休暇事情

次に有給休暇について、ドイツとフランスを例にお伝えしていきます。
ドイツでは6ヶ月以上の継続勤務をしている労働者は年間で最低24日間の有給休暇を取得する権利が保障されています。
年次有給休暇は、差し迫った経営上の必要性がない限り、または、労働者の個人的な都合で休暇を分割する必要がない限り、連続して与えられなければならず、分割する場合でも、最低12日の休暇が連続付与されなければならないとされています。

フランスでは5週間(30労働日+週休日)が法定の最低限の休暇であり、有給休暇の取得率も一般的に高いと言われています。

日本でも最近はワーク・ライフ・バランスに力を入れ、次世代法の一般事業主行動計画に年次有給休暇の取得率向上の目標を定め取り組む企業も増えてきています。
しかし、「世界28ヶ国 有給休暇・国際比較調査2016」(エクスペディア・ジャパン調べ)では、日本の有休消化率は50%、日本の有給休暇消化率が最下位という現状です。

日本では、有給休暇の取得率を上げるためには取得日数を増やすより、強制的に有給休暇を取得させるなどの法規制が有効なのかもしれません。
しかし、法規制の前にまずは企業が有給休暇を取得し易い社内の風土を醸成し、労働者も仕事以外の生活面について主体的に考える必要があります。

有休休暇に関しましては、以下の記事もあわせてご確認ください。

 

1日6時間勤務、週4日勤務の実践

ドイツ以外の国々のワーク・ライフ・バランス事情を見ていくと、スウェーデンでは1日6時間労働の実践が始まっています。
労働時間は週48時間を超えると生産高が減り始め、長時間労働によって疲れやストレスがたまると生産性が落ちるだけでなく、事故や疾病の頻度も高まるという指摘もあります。
そこでスウェーデンでは労働時間を短縮すれば、健康状態が改善されて、生産性の向上につなげられるかもしれないことを実証するための実験として1日6時間労働が行われています。
その結果、注意力が増し、ストレスが軽減され生産性が向上したという結果も出てきています。
ただし、6時間労働による人員配置の見直しにより人員を増員させることによりコストが増大するという報告もあります。
また、オランダ、スウェーデン、ベルギーなど欧州の国々では週4日勤務が浸透しています。

日本でも一部の企業で1日6時間勤務、または週4日勤務の導入がされています。
これらの制度も時間の制約のある有能な社員などを確保できるというメリットが考えられます。
労務管理では時短者という概念がなくなり、勤怠管理が容易になる可能性があります。

時間の制約のない社員についても、今後AIの普及により業務の効率化が進み、1日7~8時間も働く必要がなくなる業種が増えていくと思われます。
労働時間や日数が短縮されることにより、副業を希望する社員が増えることも予想されます。
副業が当たり前の社会になることを想定して、企業も副業の解禁に向け明確な制度化の準備を検討していくことが得策かと思われます。

加速する少子高齢化で人手不足が深刻化する中、企業は有能な人材を確保するために多様な働き方を検討し、企業独自の魅力をアピールしていく必要に迫られています。
また、高齢者や育児・介護で制約のある人材の活用も、より企業にとって重要なテーマになりつつあります。

お伝えした海外の事例を参考にそれぞれの企業に合った働き方を検討してみてください。
企業が社員の働き方について真剣に考えることによって、社員も主体的にワークとライフのバランスを考え、今まで以上に仕事や人生に責任を持つことができるのではないでしょうか。

出典:労働政策研究報告書NO151「ワークライフバランス比較法研究<最終報告書>」 (JILPT)
   1日6時間勤務、健康も生産性も向上か スウェーデンで実践 (CNN)