CLOUZA COLUMN

勤怠管理コラム

経営者の方から非常に多い相談の一つが、「従業員が、退職前にまとめて有休消化するのを何とかできないか。」というものです。

例えば、「突然1ヶ月後に辞めると言われ、しかも残り1ヶ月間は有休を使うと言われた。」といったケースです。
これだと、引継ぎがまるで行われないため、会社としては大変困ってしまいます。

そこで、今回は、こういったケースについて、会社としてどのよう対応が考えられるか、またこのような状況にならないためには、どうしたら良いのかを考えたいと思います。

 

有給休暇は最大何日たまる?

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有休休暇は、6年半以上勤務し、全労働日の8割以上を労働すれば、毎年20日発生します。
そして、1年に限り翌年度へ持ち越すことができるので、従業員は最大で40日間もの有給休暇を持つことができます。

それに対して、会社は「退職する際は、1ヶ月前までに会社に申し出ること。」という退職ルールを就業規則等に定めていることが多いです。
そうすると、1ヶ月分を超える有休を残している社員から、「1ヶ月後に辞める。」と言われ、前述の例のような引継ぎ問題が発生してしまう、という事態になりかねません。

 

まとめて有休をとる退職予定者に対して時季変更権は使える?

有給休暇を取得する日は、労働者が指定することによって決まり、会社は原則として指定された日に有給休暇を与えなければなりません。
しかし、労働者の指定した日に有給休暇を与えると、事業の正常な運営が妨げられる場合は、例外として、会社に休暇日を変更する権利(時季変更権)が認められています。

では、退職前にまとめて有休を取得されると事業の正常な運営が妨げられるとして、会社が時季変更権を行使することは可能でしょうか?

実はこれは不可能であると考えられています。

例えば、6月30日に従業員から「7月31日で退職する。7月いっぱいは有休を取得する。」と言われたとします。
この場合、引継ぎのために時季変更権を使うには、7月の有休をそれ以降の月にずらす必要があります。 しかし7月31日に退職することが決まっている以上、8月以降にずらす余地が存在しない、と考えられます。

なお近時の裁判例で、退職日を超えた時季変更権の行使を例外的に認めた、と思われるものも存在しますが、現状では実務的に定着したものとは言えず、こういった取り扱いには慎重であるべきだと思われます。

 

退職前にまとめて有休申請されたらどうする?

退職前にまとめて有休申請された場合、実際のところ法律的には対応策がほとんどないというのが現状です。
そこでこういった状況に陥ってしまった場合は、とにかく従業員に対して、退職日をずらしてくれるよう、真摯に説得するしかないと思われます。

その従業員が引継ぎもなしに突然辞めることが、会社にとってどれほど困ることかを良く説明すれば、よほど会社との関係がこじれていない限りは、説得に応じてもらえるのでないかと思います。
もっとも、このような状況に陥らないことが望ましいのは言うまでもありません。
そこで、退職前にまとめて有休を取得されないような予防策を考える必要があります。

 

まとめて有休を取得されないための予防策とは?

予防策としてまず考えられるのは、有給休暇を取りやすい職場環境を整えることです。

そもそも厚生労働省の調査によれば、平成28年の有休取得率の平均は、49.4%となっています。
そうすると従業員は付与された有給休暇の半分も取得できていないことになるため、たまった有休を退職時にまとめて取ろうとするのは何ら不思議なこととは言えません。

したがって、各従業員に付与されている有休が多くなりすぎないよう、会社が積極的な有休取得を推奨することが有効となります。半日単位や時間単位の有休取得制度を導入し、有休を取りやすくするといった方法も考えられます。

これをさらに推し進めて、「年次有給休暇の計画的付与制度」を導入するという方法もあります。
この制度は、有給休暇の付与日数のうち、5日を超える部分については、労使協定を結べば、会社側で計画的に休暇取得日を割り振ることができる、というものです。これにより、有休がたまり過ぎるという事態を回避できます。

他の方法としては、就業規則の服務規定等に「退職前に引継ぎをしなければならない。」というような規定を設けることが考えられます。

さらに、「退職する際は、3ヶ月前までに会社に申し出ること。」というような規定を設けることも考えられます。
3ヶ月ならば、仮に40日も有休があったとしても、最初の1ヶ月で引継ぎをしてもらうなど、時間的余裕が発生します。

ただし、法律は就業規則よりも優先されます。

そして民法上は、期間の定めのない雇用契約については、退職日の2週間前までに申し出れば良いことになっています。
したがって、2週間を超える退職ルールは従業員を法律的に拘束するものではありませんが、社内的な心構えとしては価値があるかと思われます。

退職前に従業員と揉めることがないよう、従業員との関係作りも含めて、事前に十分準備されることをおすすめします。