CLOUZA COLUMN

勤怠管理コラム

今年1月、著名な漫画家の方が、元アシスタントの方から残業代請求を受けた件が一部で話題になっていました。この件では「変形労働時間制」の運用について問題があった可能性があります。

この制度はどのような場合に残業代が発生するかなど、少々分かり辛い部分があります。
そこで今回は、「変形労働時間制」のメリットや気を付けるべきこと等についてお伝えしたいと思います。

 

元アシスタントが、著名漫画家に残業代を請求!

この件については裁判等で公にされた訳ではないので、その概要について、漫画家の方及び元アシスタントの方のブログなどから推測するしかありません。

漫画家の方はブログで、「変形労働時間制」を導入していたと主張されています。
しかしこの仕組みを雇用契約書や就業規則、労使協定等ではっきり記載していなかったとも言っておられます。

したがって漫画家の方と元アシスタントの方との間で、勤怠管理について認識の齟齬があった可能性があります。
いずれにしても漫画家の方が、変形労働時間制ではなく、1日8時間勤務を前提として計算した場合に発生する未払い残業代を支払うことで、事態は解決されたようです。

「変形労働時間制」は、その運用に少々複雑な部分があるため、制度の概要やメリット、気を付けるべき点について以下でお伝えしたいと思います。

 

変形労働時間制とは?メリットはどこにある?

労働基準法では、原則として法定労働時間は1日8時間、1週40時間と定めています(第32条)

したがって1日8時間を超えて働いた場合、原則として残業代を支払わなければなりません。
これは例えば、月末以外は1日7時間30分と短い労働だけれども、月末に繁忙期がありその間だけ1日9時間働かなければならない場合であっても同じことです。
月末だけとはいえ1日8時間超えて働いていることから、本来は法定時間外労働となり残業代が発生します。

しかし上記の例では、月の労働時間をトータルすれば、毎日8時間働いた場合よりも労働時間が少なくなりそうです。
毎日8時間労働ならば残業代が不要であると考えると、少し不公平に感じるかもしれません。

これについては「一ヶ月単位の変形労働時間制」を導入することで、1週または1日の法定労働時間の規制を解除することができます。

「一ヶ月単位の変形労働時間制」とは1ヶ月以下の単位について、決められた上限時間の範囲内で労働時間を各日、各週に割り振り、その上限時間及び日々割り振られた労働時間を守っている限り、1日8時間を超えて労働した日や1週40時間を超えて労働した週があっても、残業代を支払う必要のない制度です。

単位期間を1ヶ月と設定した場合、1ヶ月間の総労働時間の上限は、
31日の月で177.1時間
30日の月で171.4時間
29日の月で165.7時間
28日の月で160時間
となっています。

例えば、2018年3月の労働を、1日~23日まで7時間30分、24日~31日まで9時間と割り振った場合(土日は休日とする)、総労働時間は、172時間30分となり、上記上限の範囲内になります。
したがって、この割り振りを守っている限りにおいて、1日9時間労働の日も、1週45時間労働の週も、法定時間外労働が発生しないこととなります。

なお、「一ヶ月単位の変形労働時間制」では単位期間を必ずしも1ヶ月にする必要はありません。1ヶ月以下であれば、自由に定めることができます。
またより長い期間で変形労働時間制を運用したい場合、「一年単位の変形労働時間制」も存在します。

このように、一時だけ忙しくなるがトータルで見れば労働時間は多くないような場合に、残業代を支払わずに済むのが、この制度のメリットの1つと言えます。

 

変形労働時間制でも残業代は発生する?

変形労働時間制はこのようなメリットがありますが、一方で上記の総労働時間上限さえ守っていれば、法定時間外労働が発生しないと誤解されてしまうことがあります。
そのような場合、労働者から未払い賃金の請求をされるというような事態に発展しかねません。

そこで次はどのような場合に、変形労働時間制において法定時間外労働が発生するかをお伝えします。

変形労働時間制において法定時間外労働が発生する条件は以下の通りです。

  1. 1日については、8時間を超える所定労働時間を設定した日はその設定した時間を、それ以外の日は8時間を超えて労働した時間
  2. 1週間については、40時間を超える所定労働時間を設定した週はその時間を、それ以外の週は40時間を超えて労働した時間(1.で時間外労働となった時間は除く)
  3. 対象期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間(1.、2.で時間外労働となった時間は除く)

したがって先ほどの2018年3月の例で言えば、9時間の労働が割り振られていた30日につき、10時間働いたとすると、総労働時間は未だ上限の範囲内ですが、上記の条件1.により、1時間の法定時間外労働が発生することになります。

以上のように、変形労働時間制は少し運用に複雑な点があります。
あいまいな運用方法をしていると、職場の勤怠管理のルールが不明確になり、従業員とのトラブルの元になりかねません。

変形労働時間制を導入する際は法律を良く確認された上で、どのようなルールであるかを社内に周知徹底されることをおすすめします。
また制度やその運用方法に疑問がお有りでしたら、弁護士や社労士などに相談されるのも良いかもしれません。

変形労働制については、こちらもご確認ください。
期間単位で労働時間を計算する「変形労働時間制」そのメリットとデメリットとは?